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上映中

真実 (2019)

LA VERITE/THE TRUTH

監督
是枝裕和
  • みたいムービー 287
  • みたログ 611

3.44 / 評価:490件

一見単純に見えて実は真実は謎な物語

  • Pytor13 さん
  • 2019年10月20日 8時07分
  • 閲覧数 1774
  • 役立ち度 39
    • 総合評価
    • ★★★★★

この作品を母親に対してわだかまりのある娘がその母親と和解する物語と捉えるのは早とちりである。確かにそういう側面はある。でも、それはあまりに表面的な捉え方である。

幾何学の問題で補助線を引いてやると図形の見え方が違って見えてきて問題が解けたりするが、真実も「ある事実」という補助線が引かれることで違って見えてくる。例えば、亀の名前を付けたのは実は娘のリュミールだったと分かったとき観客には真実が違って見えてくる。あるいは、リュミールの芝居を実はファビエンヌは見に行っていたという事実を知らされるとリュミールにとっての真実も違って見えてくる。ファビエンヌが『森の魔女』役を引き受けたのも実はリュミールのためだったと分かると真実は違って見えてくる。しかしである!果たして補助線はそれで全てだろうか?実はまだまだ隠された事実がたくさんあって、その補助線がひとつ浮かび上がるごとに、それぞれ違った真実が見えてくるのではないだろうか?そうなると今思っている真実が本当の真実かどうか分からなくなる。本当の真実なんて実は誰にも分からないのではないか?

秘書のリュックを呼び戻そうとするエピソードも真実はどうだろうか?リュミールがリュックを説得する脚本を書く。しかし、ファビエンヌはアドリブで脚本を勝手に変えてしまう。でも、リュックの心を本当に動かしたのはファビエンヌがファンの声援に投げキッスで応える仕草に改めて惚れ惚れして「このひとを支えたい」という気持ちにさせたのが真実ではないかと思う。つまり、リュックの心を動かしたのは脚本でもなく大女優の名演による説得でもなく、女優の何気ない横顔だったのだ。帰ってきたリュックに脚本通りに進んだと思っているリュミールはご満悦に「本当は辞めるつもりはなかったんでしょ」というが、現実はそんな脚本通りになんて進まない!ドキュメンタリー出身の是枝監督らしいエピソードの盛り込み方だ。

若手女優のマノンはどうか?彼女には隙きがまったくない。完璧に描かれている。しかし、リュミールの髪をファビエンヌに梳かせないエピソードを本当は誰に聞いたのか?リュミールは単純にファビエンヌが勝手に喋ったと思っている。しかし、ファビエンヌはトボケているがそんな話をマノンにした覚えはなさそうだ。(数え切れないほどのインタビューの中でファビエンヌが喋った可能性はある。しかし、自伝でさえウソをつくファビエンヌがそんなことを話すだろうか?また、インタビューも一見気軽に答えているようだが、実際はけっこう注意しており内容を覚えているようだ。)では、マノンは本当は誰に聞いたのか?おそらく、シャルロットではないか?ぬいぐるみを拾ったことでシャルロットと接触があり、シャルロットがスタジオでウロチョロしている間に仲良くなってリュミールの髪の話を聞き出したのではあるまいか?まるで隙きのないマノンだが、本当の彼女はどんな人間なのか?ファビエンヌが言うように本当は貪欲なのか?いや、単に勉強熱心で本当に純粋無垢なのかもしれない。貪欲か純粋か?あるいはその両方か?マノンが本当はどんな人間なのか真実は分からない。(本物の女優はとらえどころがない。それは自身は役によってキャラクターを盛る器にならなければならない為かもしれない。)

この物語をわがままな女優である母親と放置された娘のわだかまりが再会によって次第に和解する物語と捉えるのはあまりに単純過ぎる。真実が謎解きのように次第に浮かび上がってくるのだが、果たしてそれが本当の本当に真実なのか確信を持てないというのがこの作品の醍醐味であり面白味だ。

ところで、この作品は真実の複雑さを描いているが、同時に女性というものも描いている。「すべての女性は女優である」と言われるように主人公ファビエンヌは女優を職業としている。さらに「すべての女性は魔女である」と言われるようにファビエンヌは魔女的要素を多分に含んでいる。女性は母親の顔、女の顔など様々な顔を持つ。母と娘は時として女の顔になり、性について話したりもする。真実が複雑であるように、女もまた様々な役割を軽やかに演じてゆくので女の本当の姿は謎に満ちている。単純な男と違って女は複雑で謎に包まれている。ファビエンヌの風格が女の謎が海の深さのように奥深いものであり、その深さは人間性の豊かさを体現しているように感じさせる。

シャーロック・ホームズが「単純で平凡な事件ほどその謎解きは難しい」と話していたことがある。この物語も一見すると母娘の確執とその和解の物語と単純に解釈してしまいやすい。しかし、実際は真実はどうかと考えると、この物語はとても深みのある作品になっている。その深みを味わうことができれば、この物語の本当の面白さが分かると思う。

(文字数が足りずにサラに言及できないのが残念だ。字数制限を増やしてほしい。)

詳細評価

物語
配役
演出
映像
音楽

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