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アガサ・クリスティー ねじれた家
2019年4月19日公開

アガサ・クリスティー ねじれた家

CROOKED HOUSE

1152019年4月19日公開

aad********

4.0

頭をタイムスリップさせて観ると面白い

酷評もあるなかで、「何で? 面白いですけど?」というレビューもちらほら見られる。私もそちらに一票。うん確かに。面白かったですよ。 個人的に、ポワロがやたらに好きすぎ他の作品をあまり読んでなくて、本作も未読だが、原作に忠実との事なので、小説を読んでるような意識で鑑賞。実際、アガサ節というか、彼女のテイストを極力忠実に再現している、丁寧な作りという印象。 ということも踏まえ、原作者であるアガサ・クリスティの凄さを思った。ミステリの女王と呼ばれるが、男女関係なく天才作家だと再認識。 つまらなかったと思った人は、原作小説の発表年が1949年だということに思いが至っていないのかもしれない。ミステリ作品が出尽くしているような状況の現在では、きわだった新味はないかもしれないが、そもそも、そうした夥しい類似作品が世に出回る前に書かれた作品、というか、その元となった作品の一つではないだろうか。 彼女はその前にも、そして本作以降も、その後のミステリ作品に多大な影響を与える作品を著している。「アクロイド殺し」など、その最たるものだろう。当時は物議をかもしたが、今では、このアイデアに類似する作品は夥しく、しかも大抵は後味が悪い。 本作も、一歩間違えば後味が悪くなりそうなところ、うまくまとめているのがさすがだ。似たアイデアの作品が、本作以前になかったわけではないのだが、彼女はミステリ以前に、物語としてのひねりやまとめ方がうまい。これも、今でなら結構ありそうな展開かもだが、クリスティは、今なら結構ありそうな展開を、はじめて書いた作品も多いのである。これもその一つかもしれない。 本作でもう一つ好もしかったのは、大富豪とその家族の描き方だ。探偵役が彼らを「この家の人は変」という場面があるが、見ている限り、特別変でもない。その境遇で、その財政状況、家庭環境でなら、普通にいそうな人たちである。 一般庶民は、大金持ちはとかく偏屈で、変人、強欲な成り上がり者、という偏見を持ちがちだが、クリスティにはそれがない。彼女はよく、キャラクターがワンパターンだとか、いろいろ難癖をつけられるのだが、私はその大半は、女性作家を下に見ようとする風潮からきていると思う。キャラがワンパターンな人は他にもいるが、彼女だけがそんな風に言われるから。 私の見るところ、クリスティは人間観察についてはむしろユニークでクールだ。金持ちも、そうでない人も、同様に偏見なく描くという姿勢は、彼女の他の作品にも見られる。被害者、犯人の描き方も一様ではないし、どちらにより肩入れしているようでもなく、客観性を保った視点で描く作家だと思う。 映画作品として見た場合、監督にそれほどの才気や手腕、人間洞察の鋭さがないためか、若干凡庸な印象はある。 彼女の映画化作品で、個人的に最も好きなのは1978年作の「ナイル殺人事件」、1974年「オリエント急行殺人事件」だ。アガサ・クリスティ原作というだけでない、監督の手腕と俳優の演技に見惚れ、何度も観た。 それに比べると、近年の映画化は、言っては何だが凡作になりがちな傾向は否めない。本作でもつい、映画作品としての評価より、原作者の話ばかりになってしまうのもそのせいかもしれない。 が、クリスティへの敬意を感じるし、原作の良さを壊してないのが良い点だろう。気持ちよく鑑賞を終えた。 小説にはない、映画ならではの良さもあった。何より、イギリスの古い屋敷が堪能できる。屋敷の内部、ホールや階段なども含めた設計、それぞれの部屋のデザインや調度なども、結構な見所だ。 ちょっと気になったのだが、主人公の探偵を部屋に案内した際、「バスルームはここ」と、室内にあるドアを開けて見せる場面。 イギリスの古い屋敷には屋内にトイレが無いと聞いたのだが、向こうはバスルームとトイレは一体というイメージがある。画面では洗面台がちらっと見えるくらいで、トイレの存在までは映ってないのだが、実際の所はどうなんだろう? 屋敷の様子ばかり見てしまったが、俳優陣も手堅い人選。そんなに丁々発止のやりとりや、毒のある会話はなく、むしろ実力を発揮できなかった人もいそう。この、クリスティ特有の、中だるみ(?)的な淡々とした語り口で話が進行する中で、どうやって、彼女ならではの料理で、観客をうならせてくれるのか。 ミステリ慣れしすぎて、ある種「スレて」しまってる現代人から、ちょっと頭をタイムスリップさせて、終戦直後のイギリス人になったつもりで鑑賞すると、面白さがより堪能できるかもしれない。佳作だと思いますよ。

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