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嵐電 (2019)

監督
鈴木卓爾
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2.75 / 評価:128件

嵐山線を舞台にした不思議な話

今回取り上げるのは、昨年5月に公開された『嵐電』。京都を走る「京福電気鉄道嵐山線」を舞台に、3組の男女の恋愛を幻想的なシーンを交えて描く。YAHOO!映画の平均点は★3つを下回るので、観た人の評価は高くないようだが、僕はわりと面白く観たので私的評価は★4つだ。ある鉄道を主役として、それが走る場所の歴史や文化をひも解く映画は好きなほうだ。
映画の冒頭で夜間の駅や踏切を映しながら、男女がミュージカルのように掛けあいで歌う声が重なる。これを聞いて「この映画はそんなに真剣に観るべきではないのだな」と思った。歌詞の中に♪これからは私たちの時間よ~というのがあり、「終電後に鉄道にからんだ妖怪変化みたいなのが出るのかな」と思ったら、だいたい予想通りだった。

嵐電のメインの塗装色は紫色で、京都の柴漬け(京柴)の色だと説明される。このような色の電車は僕の住む近所では走っていないので珍しかった。紫色だけでなく様々な色の嵐電が走り、地元の高校生・有村(石田健太)が夢中になって8ミリカメラに収める。
僕には鉄道の趣味はないが蝶が大好きで、同じ種類でも性別・地域や季節によって翅の模様や色合いが違う。だから嵐電に魅せられた彼の気持ちも分かる気がする。
僕の住む東京都足立区では小菅駅が鉄道の撮影スポットになっているようで、すぐ近くの荒川に架かる鉄橋を一直線に走ってくる東武鉄道を写そうと、カメラを持ってホームの端で待ち構えている人をよく見かける。

僕は遠い昔、嵐電の走る妙心寺、太秦映画村、弥勒菩薩のある広隆寺を訪ねたことがあるが、嵐電に乗った記憶はないからこの場所をテクテク歩いたのだろう。太秦に行くために京都駅から山陰本線に乗ったのを覚えている。この時に京都駅に「0番線」があるのを知った(今もあるのかなあ?)。なんとなく0番線って物の怪が乗りそうな雰囲気がある。ちなみに足立区の綾瀬駅にもあるが、0番線が存在する駅は全国では珍しいそうだ。
嵐電の駅名についてだが「帷子ノ辻(かたびらのつじ)」「蚕ノ社(かいこのやしろ)」と、さすが京都らしく雅そのものの駅名が凄い。帷子の辻については劇中で駅名の由来が語られる。僕が感心した名前は和歌山県由来の「小鳥遊」というもので、これを「たかなし」と読むと知ったときは感激した。

嵐電が走る町について見てみよう。底冷えする京都の寒さが伝わってくる街並みがとても魅力的に撮られている。なんと言うか、通りと鉄道が必ずしも並行には走っておらず、それぞれが好き勝手に方向性を主張しているように見えるのがいい。
この感想は日暮里・舎人ライナーで荒川を渡り、高所から足立区の街並みを俯瞰するときにも感じる。つまり大昔の田畑と森の境界線や川の跡など複雑な要素が、現代の道路にそのまま反映されているわけだ。嵐電は専用の路線を走ったり自動車道路に乗り入れたりするが、これは東京の都電荒川線と共通している。
駅のすぐそばにある喫茶店で、昔の嵐電を映したフィルムの上映会を開くシーンが映画のクライマックスである。太秦映画村のある町ということで、気軽に映画に触れる文化が市民に根付いているのだろう。昔の映像の中にメインキャラの現在が挿入され、現実と幻想が混ざった映画であることを実感する。

主人公は、嵐電に関する不思議な話を収集するライター・平岡(井浦新)であるが、彼の妻(安部聡子)に関しては謎が多い(僕の理解力が足らないのかも知れないが)。平岡が身体の悪そうな妻を気遣いながら二人で夜の嵐電を見に行き、その姿をもう一人の彼が幻視しるシーンは素敵だが、現在の妻との関係はどうなっているのか?平岡が線路脇のアパートに部屋を借りて、腰を据えて取材活動を開始するが、そこまでする動機がよく分からなかった。
青森から京都に修学旅行に来た女子高校生(窪瀬環)が、嵐電を撮影する有村に一目惚れしてアタックを開始。女の子が彼を好きになる理由が分からないので戸惑っていると、映画後半では彼女は京都に引っ越して来て、いつの間にか二人はいいムードになる。この展開もさすがに無理があるだろう。

もっとも感情移入できるのは、映画村近くのレストランで働く嘉子(大西礼芳)と若い俳優・吉田(金井浩人)のカップルである。大西礼芳は「菊とギロチン」で女力士の一人を演じ、強い印象を残した。ゾンビ映画の撮影所に弁当を届けに来た嘉子は吉田に京都弁を指導することになる。
嘉子は京都について詳しい(京都タワーについて語るシーンが興味深い)が他人と関わることに自信がなく、さりげなく好意を寄せてくる吉田を憎からず思いつつ戸惑いを隠せない。京都の古い街並みに調和した、大西礼芳の切ない表情がまさに映画の顔と言ってよい。彼女のような女優が活躍の場を与えられて、正当な評価を受ける日本映画界であってほしいと思う。

詳細評価

物語
配役
演出
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音楽

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