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ホワイト・クロウ 伝説のダンサー (2018)

THE WHITE CROW

監督
レイフ・ファインズ
  • みたいムービー 95
  • みたログ 154

3.87 / 評価:120件

見所はダンスだけではない

  • puc***** さん
  • 2019年6月10日 4時17分
  • 閲覧数 333
  • 役立ち度 9
    • 総合評価
    • ★★★★★

初回はバレエシーンに集中していたのでストーリーを掴みきれなかったのですが、2回目の鑑賞で、フラッシュバックのエピソードが絶妙に重なり合って現在のヌレエフを説明していることに気付きました。バレエ学校では新入生であるにもかかわらず担任教師の交代を要求し、交代したプーシキン教師との出会いで彼は生涯のバレエ哲学を形成します。ヌレエフはダンスの「vital」(活力)となる芸術をむさぼり、ドイツ人のバレエ仲間からは英語を学びました。

将来の国際的な活動を予知していたかのように、キャリアに不可欠なものをヌレエフは本能的に見つけて手に入れていきました。パリでフランスのダンサーや外国人たちと交流できたのはヌレエフが英語を話せたからです。事実、彼はフランスの官吏に「I want to stay in your country」と明瞭な英語で亡命の意志を伝えたそうです。

亡命シーンを見ていて、かつて在中国の日本領事館が逃げ込んだ脱北者を押し返したことを思い出し、日本はフランスのように断固とした態度で亡命希望者を守るのだろうかと考えてしまいました。

軍人の父親は幼い息子を狩りに連れて行きました。成長したヌレエフがレンブラントの「放蕩息子の帰還」を見つめるシーンがあります。その時はよく分かりませんでしたが、エンディングの幼いヌレエフが民族舞踊を踊るシーンで、すべてがつながりました。狩りに連れ出して息子に男らしさを教えようとする父親の思いとは裏腹に、彼は民族舞踊に夢中になり、ダンスの才能をバレエ教師に見出されます。狩りの日、彼は父親に置き去りにされたのではなく、父親の願いに応えられない自分が父親に見放されたと感じたのでしょう。ヌレエフは、レンブラントの父親が放蕩息子を許すかの如く抱擁している絵画に自分を重ねたのだと思います。ヌレエフのすべてがあの幼い日の民族舞踊から始まったのです。このシーンを最後に持ってきた演出は見事だと思いました。子役の男の子が可愛くてウルウルしました。

主役のオレグ・イヴェンコは新鮮で存在感があり、バレエダンサーとしても申し分ありません。俳優経験がありバレエ・知名度とも第1級のセルゲイ・ポルーニンを脇に廻して側面からダンスシーンを盛り上げています。若いイヴェンコのダンスは元気いっぱいで楽しく、ポルーニンはほんの数秒ですが洗練された熟したダンスで堪能させてくれます。

メイキングを見ると、舞台上で彼に接近して撮影するカメラクルーを気にもせず「ラ・バヤデール」を伸び伸びと踊るイヴェンコが魅力的です。レッスン風景の撮影では、いとも簡単に11回転のピルエットをきめていました! 映画「ホワイトナイツ」でバリシニコフがグレゴリー・ハインツを驚かせたピルエットも11回転でした。レッスン風景も含めバレエシーンのカメラワークが斬新です。

バレエスクールを卒業したヌレエフをパートナーに指名したナタリア・ドゥジンスカヤ役は、ワガノワ ~ マリインスキーを経てドイツ・ハンブルグ・バレエのプリンシパルを務めたアンナ・ポリカルポーワ。気品あるロシアのプリマの雰囲気を漂わせていました。ナタリアの指名でキーロフに入団できたヌレエフが「ローレンシア」を踊った時、ヌレエフは21歳、ナタリアは47歳でした。ヌレエフの亡命でナタリアと彼女の夫であるキーロフの芸術監督(ヌレエフがレッスン場から追い出した人物)は国から厳しく叱責されましたが、任務を解かれることはなかったようです。ソ連当局は、ヌレエフの両親とプーシキン先生に帰国を説得するヌレエフへの手紙を書かせました。スターリン亡き後(1953年) のフルシチョフの時代は粛正が影を潜めた比較的緩やかな時代でしたが、ヌレエフが初めて帰郷を許されたのは危篤の母を訪ねた1987年(ゴルバチョフの時代)で、たった48時間の滞在許可でした。

取り上げられたバレエ作品は、パリオペラ座で主人公が踊った「ラ・バヤデール」のソロルのヴァリエーション、キーロフでのデビュー作品「ローレンシア」、パリで踊った「白鳥の湖」第1幕の王子のヴァリエーションと第3幕の黒鳥のグラン・パ・ドゥ・ドゥです。音楽では「ラ・バヤデール」が耳に残りました。彼がパリのナイトクラブで見たコミカルなお尻ダンスの曲も面白く、一行のパリ最後の夜に流れていたフランスの名曲「愛の喜び」が美しく胸に響きました。プレスリーの「好きにならずにはいられない」の原曲としても有名です。

バレエ技術はフィギュアスケートと同様に時代とともに進化しています。私たちは、より高く飛ぶジャンプと回転で滞空時間が長い現代のトップダンサーたちの演技に慣れてしまいました。それでもその時代をリードした傑出したダンサーであり、優れた先見性でバレエの新たな分野を切り開いたヌレエフへの憧憬と尊敬が変わることはありません。

長文にお付き合いいただきありがとうございました。

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