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蜜蜂と遠雷 (2019)

監督
石川慶
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3.51 / 評価:2011件

同じ風景を見る者の共通言語について

今回取り上げるのは昨年10月に公開された『蜜蜂と遠雷』。19年のキネマ旬報ベストテンでは日本映画の5位に選ばれている。原作は恩田睦の小説で、直木賞と本屋大賞の両方を受賞している(恩田氏の小説では「夜のピクニック」も本屋大賞を受賞したことがある)。有名な小説の映画化にも関わらず、興行収入は8億6千万円と意外に振るわなかった。
僕自身はとても楽しめたので私的評価は★5つだ。7年間のブランクから復帰した20歳の栄伝亜夜(松岡茉優)を中心に、国際ピアノコンクールに出場する4人の若者を描き、苦しみよりも「音楽の楽しさ」を強調しているところに好感が持てる。本作の魅力は映像とピアノ曲の美しさの2つに集約され、本職のピアニストを起用した演奏シーンはやはり迫力がある。

僕は小さい頃にピアノを習っていたが、中学3年の時にやめてしまった。ソナチネやソナタの練習曲を譜面通りに弾くのが精一杯で、本作の登場人物のようにメロディラインもはっきりしない、不協和音だらけの難曲を猛スピードで弾きこなすなんて想像もできない。特に「春と修羅」のカデンツァ(即興演奏)のシーンは、音楽というよりスポーツという感じだ。
疑問に感じたのは、国際コンクールなのに宮沢賢治を題材にした曲があり、世界的には賢治の知名度はどれくらいあるのか、海外のピアニストは曲の解釈において日本人に比べてハンデがあり不公平ではないか、ということだ。「あめゆじゅとてちてけんじゃ」という言葉はとても美しいものだが、日本人でもよほどの賢治ファンでなければ意味を理解する人は少ないだろう。

カデンツアの部分は楽譜が空白であり、ピアニストが自分の好きなように演奏するようになっている。出場者は、本命のマサル(森崎ウィン)のようにしっかり楽譜を作り込んだ者、天才少年・風間塵(鈴鹿央士。瀬戸康史を幼くしたような印象だ)のように曲の緩急だけをラフスケッチのように書いた者、亜夜のように全く空白のまま演奏に臨む者と、さまざまなアプローチがあり、映画の山場といえる。
僕はピアノコンクールについては全く無知なのだが、カデンツァはどのような基準で優劣を競うのか?審査員の好みが大きく反映されるのではないか?そもそも課題曲に「カデンツァ」とは有りなのだろうか?もしかしたらフィギュアスケートのように細かな採点ポイントがあるのだろうか?この辺がもう一つ気になったところである。

音楽の楽しさについて、僕の思い出を書いてみたい。小学3年生のときにピアノの発表会があり、会場は東京タワー近くのホールであった。発表会の前に家族で東京タワーの展望台に上り、これが僕にとって初めての東京タワー体験であった。発表曲はハイドンのソナタで、根性無しの僕が必死に練習したおかげで本番ではトチることなく弾くことができた。自分の出番が終わって、客席で他の子供たちの演奏を聴いているとき「ああ、今日はなんて楽しい日だ」と実感したのをハッキリと覚えている。

音楽の楽しさを実感させる場面といえば、何といっても亜夜と塵が月を見ながら連弾するシーンになるだろう。表題に書いた「同じ風景を見る者同士の共通言語」でもある。僕は音楽については全く無知で、決勝戦で演奏される曲については作者も曲目も知らないのだが、月夜の連弾シーンの「月の光(ドビュッシー)」「ペーパームーン」「月光(ベートーベン)」のメドレーは、同じ夢を見る者のラブシーンを見ているようで心が弾む。
ほかに天真爛漫な表情でピアノを弾く塵、演奏会場で高島明石(松坂桃李)の晴れ舞台を見る妻と幼い息子、亜夜と亡き母親が練習する回想シーン、亜夜の心象風景であろう超スローな雨粒と黒馬の美しい映像、などが印象深い。塵が練習のしすぎで手の爪を割ってしまい、瞬間接着剤で応急処置するシーンは「ピアニストあるある」なのであろうか?

決勝戦でピアニストと共演するオーケストラについてだが、僕は連れ合いと一緒に何度かバレエを見に行ったことがあり、始まる前にオーケストラボックスで演奏家たちが各々自分のペースで練習しているのを見るのが好きだった。バレエが終わった後でエスカレーターに乗って会場の外に出ようとすると、楽器を抱えて帰る演奏者が同じエスカレーターに乗っていたこともあった。
決勝戦に残ったマサル、塵、亜夜は各々が会心の演奏をしたところで、最終結果がテロップでそっけなく表示されて映画は終わる。結果について書くとネタバレになってしまうが、まあ当たり障りのない順位だろうなと思う。僕が4人のメインキャラを担当したピアニストの個性を聴き分ける耳を持っていれば良かったのに、それだけが口惜しかった。

詳細評価

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音楽

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