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上映中

ひとよ (2019)

監督
白石和彌
  • みたいムービー 543
  • みたログ 891

3.92 / 評価:716件

人はそれぞれ事情をかかえ平然と生きている

  • バツイチ王子 さん
  • 2019年10月1日 0時46分
  • 閲覧数 3865
  • 役立ち度 54
    • 総合評価
    • ★★★★★

今日見た試写会で感じた思いを
新鮮なままに閉じ込めたくて、勢いで書く

相当なインパクトだった映画「凶悪」
その舞台挨拶で、白石監督を見初めてもう6年
この映画の評価から既に高かったが
さらに評価を上げ、すっかり白石映画とブランド化した

その特徴は、人間の薄ら暗い部分を濃厚に描く点だ
普通ではない、ちょい外れた人間の壊れた描写は
乱暴に心を鷲づかみされ、揺さぶってくるのだ
近作「凪待ち」にも、そんな風にざわつかされた
そのテイストは、韓国ノワールに近く、気に入っている


そんな白石監督にして、今回は家族の再生の物語という
珍しくアウトローがメインではない作品
だが、この映画に出てくる問題は、それほど突飛ではない
とはいえ、この監督をして普通の作品にはならないだろう


それにしても、出演者の豪華なことったらない
弟 佐藤 健、兄 鈴木 亮平、妹 松岡 茉優、母 田中 裕子
で、子に暴力振るう父を殺めた母が、出所し子供と再会する
そんな物語と聞いただけで、無性にそそられてしまう

そこに、数々の今そこにある問題が、リアルに攻める
 DV、飲酒運転、更生、離婚、介護、薬物

冒頭、母こはるは、三人の子の前で父を殺めたと告白する
どうすればいいんだよ?
子供たちは、それを背負って生きていくことを強いられる
どうすべきだろう?
そんな母が、刑期を務め15年ぶりに戻ってくる
どうしよう?
メインの稲村家だけでも、これだけどうすれば?が溢れる

現代社会が、今まさに抱えている病巣
対峙するか、目を背けるか、それとも逃げるのか
様々な手段は、時に不幸な展開にもつながってしまう

内向的で吃音の長男(鈴木 亮平)は、離婚の危機に瀕し
母を肯定しようと努めることで、自分の中に澱をため込む
「西郷どん」や次作「燃えよ剣」の近藤勇とは真逆
いつものことながら、役の作りこみには恐れ入る

やさぐれ記者の次男(佐藤 健)は、苛立ちを隠せず
書くことでしか、その気持ちに折り合いをつけられない
スカした表面と、なかなか見えない内面のコントラスト
抑えめの演技ながら、その行間を的確に読ませられる

鬱積する妹園子(松岡 茉優)は、母の帰りに喜ぶも
酒に頼った毎日で自らのバランスを保つ
兄弟にイラつきながらも、関わりを辞めずに対峙する姿に
家族への愛を滲ませる

どれが正解なんだよ?
役者のシリアスな描写が、説得力をもって答えを強いる

鑑賞後の監督の言葉でもあったが、
主演の三人は顔は似なくも、兄弟にしか見えない
そして、特徴をもって、葛藤を抱えた難役に溶け込む
役者の力、と監督は評されたが
余すことなく搾り取った、監督の手腕もあるだろう
派手さはなくも、空気感を操った骨太な演技が胸に響く

それに対し、お母さんは間違っていない!と主張する母
演じる田中 裕子の存在感たるや、圧巻としか言いようない
言葉の真意、そうせずにはいられない思い
いちいち沁みて、評する言葉も出させてくれない


多かれ少なかれ、幸せにも不幸ににも、不公平に溢れている
そんな中、どう生きれば正解かなんて誰にもわからない
何であれ、折り合いをつけて生きていくしかないのだ

さあ、お前ならこんなときどうする?
彼らの苦悩を見ることで
しつこく自分自身へ問いかけをされたような気がしたよ


また堅苦しくレビュー書いたが、シリアス一辺倒にせず
スッと抜いて笑わせる場面も少なくなく、楽しめる
中でも、シリアスな壊れた家族の再生を、
エロ雑誌デラべっぴんの復刻に準えた場面には、ヤラれた

なお、このデラべっぴんは実在のエロ雑誌
まだネット社会前時代の、オカズ媒体の定番
3、40代男性はかなりお世話になったはずだ
デラはデラックスの意味と
名古屋弁の〝とても〟の意味もあると思われ
長男大ちゃん指摘のとおり、
アクセントは、デ↑ラ↓べっぴん である


白石監督は、号泣する道下(佐々木蔵之介)に笑ったそう
シリアスな場面での真裏に、笑いが内在するのには納得
骨太とエンタメを兼備した点は、いい意味で韓国映画っぽい

時に親目線、時に子の目線で考えさせられ、
グイグイと引き込まれ、前のめりになるほど入り込んだ
十代の自分、離婚真っただ中の自分、親となった自分
見るタイミングによって、感じ方が幾重にもかわるだろう

できるのなら、20年前と20年後の自分に観せて、
彼らとこの映画について、あれこれ語り合ってみたい
きっと、感じ方が違っているような気がする

好みの白石監督、名優、深遠なテーマ、工夫利いたストーリー
これだけ揃っていたら、ハズれるはずもなかったか
いいドラマ見せていただいた


“人はそれぞれ事情をかかえ、平然と生きている”
伊集院静「大人の流儀」から

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