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あなたの名前を呼べたなら (2018)

SIR

監督
ロヘナ・ゲラ
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4.11 / 評価:217件

祖を捨てることでしか満たされない心たち

  • dr.hawk さん
  • 2019年8月23日 20時07分
  • 閲覧数 990
  • 役立ち度 3
    • 総合評価
    • ★★★★★

2019.8.22 字幕 テアトル梅田


2018年のインド&フランスの合作映画
婚約破談した御曹司と、新婚家庭で働く予定だったメイドとの恋愛物語
監督&脚本はロヘナ・ゲラ


物語は地元の村からムンバイへと急いで戻る主人公ラトナ(ティロマ・ショーム)が描かれて始まる

新婚家庭のメイドとして雇われたラトナだったが、結婚式当日に呼び出されることになり困惑気味

理由もわからぬまま雇い主の御曹司アシュヴィン(ヴィヴェーク・ゴーンバン)の家に着くと、「結婚が破談になった」という噂が聞こえてきた

そしてやや覇気のないアシュヴィンが帰宅し、その噂が本当であるように思えた

関係性から真実を聞くこともできないラトナは、腫れ物にさわるかのような家政婦業を営むことになった


ラトナはデザイナーを目指していて、メイド仲間ラクシュミ(ジータジャーリ・クルカーニ)らの助けを借りて、地道に技術を磨こうとしていた

ある日ラトナは、アシュヴィンに「休憩時間に裁縫教室に通ってもいいか?」とお伺いを立てる

アシュヴィンは嫌な顔ひとつせずに、ラトナに時間を与えた


物語はアシュヴィンがラトナの夢を知り、それに向かって少しずつ歩み始めるのを間近に見ていくことで動き出す

アシュヴィンは兄の死去によって、アメリカから呼び戻された男で、本来はライターとして働くことが夢だった

父(ラウル・ボラ)の建設会社を継ぐ夢はなく、結婚も婚約者サビーナ(ラシ・マル)の浮気で破談

アシュヴィンがムンバイで生きていく能動的な理由はなかった

そんな中、かつての自分を見るかのように、献身的に自分に尽くし、夢に向かって歩むラトナに惹かれていくのである


インドのカースト制度及びヒンドゥー教の教義によって、このふたりの恋愛は「ファンタジーかつタブー」である

富裕層であるアシュヴィンと貧困層のラトナ

原題『Sir(劇中では旦那様と訳されている)』が示すように、名前を呼ぶことすら許されない関係である


ラトナは19歳にして未亡人であり、しかも病気を隠していた夫の早逝によって「一生恋愛も結婚もできない運命」を背負っている

その理由は「寡婦として、夫の霊を敬い、亡き夫の家族に仕える」というヒンドゥー教の教えからくるものである

ラトナが冒頭のバスの中でサビーナから貰った腕輪を嵌め、実家に帰るときには外しているように、村では装飾すらも許されない

ラトナは村から離れることで自由を得ることができ、アシュヴィンもまたインドを離れることでしか自由にはなれないのである


ラトナはアシュヴィンの想いに応えることはできない

それは自由に思えたムンバイですら叶わぬものである

アシュヴィンはラトナへの想いを父に告げ、そしてアメリカへ戻る決意を固める

父がそれを咎めないところに、アシュヴィンの想いの強さと「しきたりに囚われない自由」がある

インドで成功を収めるには「脱インド」を思想的に為さなければならないという暗喩であろうか


アシュヴィンは去り際に友人のアンキタ(アヌプリヤー・ゴーエンカー)のブティックにラトナを紹介する

彼女のデザイナーへの道を後押ししたアシュヴィンは、別れの言葉すら残さずに去ってしまう

だがアメリカに渡った彼はラトナに電話をする

彼自身がもっとも聞きたかった言葉を聞くために

アシュヴィンとの主従関係が解消し、彼が「脱インド」を果たして始めて、ラトナはその言葉を告げることができるのである


いずれにせよ、このファンタジーかつタブーの恋愛を成就させるには「インドから離れないといけない」という現実がつきまとう

ファンタジーとして、インド国内でタブーを無視して描いても批判だけが噴出するであろう

監督はインドの問題点を露見させつつも、現時点での解消は不可能であると告げている

この恋愛の成就はラトナがデザイナーとして成功し、彼女が「脱インド」を果たさねばならない

希望は見えるけれど、その道は果てしなく険しい

ハッピーエンドに見えるものの、現実的な側面を踏まえるとバッドエンドにも思えるのが悲しいところであろうか

詳細評価

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