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ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 - 永遠と自動手記人形 - (2019)

監督
藤田春香
  • みたいムービー 385
  • みたログ 1,701

4.56 / 評価:1485件

祈念のため。架空世界と知りつつも・長文

  • whrmds さん
  • 2019年10月25日 0時35分
  • 閲覧数 968
  • 役立ち度 3
    • 総合評価
    • ★★★★★

京都アニメーションで惨禍に遭われた方々を想起し、その平穏を祈念するため、この作品を鑑賞しました。個人的にライトノベル(ラノベ)には、若き日に「そんなものは無かった」時代を過ごした者として、強い違和感を覚えます。自分はラノベとは相性が良くないので、ラノベ原作のアニメを得意とする京アニの作品もまた、あえて見ずにきました。しかし悲劇を受けて考えを変え、被害に遭われた作り手の皆さんの平穏を祈念したいと思ったものの、忙しさに紛れて地元での上映は終わっておりました。そのため、仕事で東京に出た日の空き時間に鑑賞しました。訪れた池袋の映画館は、1日1度に減らされた上映でもなお、京アニファンの皆さんが熱い思いで集う場でした。上映の90分間、京アニらしい流麗な映像表現に感激し賛嘆を惜しまない時間が過ぎました。静謐な上映室で多くの観客の方々と感動を共にし、とても良い映画鑑賞となりました。
 以下、長くなりますが、この作品について、言っておきたいことを書きます。要するに、本作には感動しましたが、ラノベが苦手なのは治りませんでした。
 まず、見ていてちょっと引いてしまったのが、本作の「いかにもラノベらしい」ところです。原作者が地名・人名を由来や歴史的背景を気にせずに使うので、それに集中を妨げられます。例えばヒロインのイザベラが属する家門は「王家に近いヨーク家」です。それで「現在の当主は女王エリザベス2世の第3子アンドリュー王子で、イギリス貴族では名門中の名門」というリアルな情報を思い起こす羽目に。CH郵便社の所在地は略称でライデンと呼ばれるのですが、「ライデンはオランダにあるから、寄宿学校のあるイングランドに近いよ?何で移動にそんな日数かかるの?」とヴァイオレットにツッコミを入れたり。現実のオランダやイングランドは、本作の架空世界とは関係ないのですが。作品前半の山場であるデビュッタントは、ヨーロッパ上流階級の若者の社交界デビューの儀式です。ところが、この作品では寄宿学校の女子生徒だけで儀礼が行われており、その場には男子も親も観衆も社交界実力者もおらず、全然デビューになっていないではありませんか。あれをイザベラの結婚相手との出会いの場として機能させた方が、ヴァイオレットとの別れも必然的になりますし、ずっと作品に深みが出たのではないでしょうか。などなど、つい余計なことを考えてしまう豊かな余白にあふれた作品でした。
 そして実は、京アニらしい、美しく「正確に」描かれている背景画も、気が散る原因でした。貨客船の入る港はアドリア海沿岸で、CH郵便社最寄りの印象的な海岸道路は南仏のカンヌで見た覚えがあり、前半の舞台となる寄宿学校の近辺はなだらかな地形に温暖な海洋性気候特有の植生で、しかも学校の丘に植わっているのが葡萄の木に見えるため、まるで校舎はロワール渓谷のシャトー(ワイン醸造所)のようです。貴族制に立脚した寄宿学校であるなら、イングランド特有の荒涼とした風景、たとえばヒースやムーアの中に置いて欲しかった、というのは我が儘でしょうか。風景を正確に、美しく描く。よもや、それがすんなり作品世界に入れない原因になるとは。嗚呼、こんなにイメージを広げてくれる、作品に集中できないほど豊穣なのが、京アニの作品なのに。
 そしてこの作品で一番惜しまれるのは、映画の終盤、イザベラが不幸な結婚生活を送っている苦境が描かれないことです。彼女は一人娘であり、女性ながら当主となってヨーク家の爵位と資産、権力の全てを相続します。父と同じ名門貴族の当主として権力者となる未来を保証された彼女には、ヨーク家の権力と家産の継承と家門の維持に役立つ男性が結婚相手として選ばれたはずです。彼女を夫に従属する妻にしてしまう男を選べば、彼女の父である現在の当主が死んだ瞬間、家長のいないヨーク家は断絶します。それでいいなら、わざわざスラム街で後継者探索をする理由がありません。ですから、彼女の不幸の原因は「籠の鳥」生活ではなく、不実な浮気者の夫との愛のない日々なのでしょう。しかしイザベラは作中で何も語らず、突如として身繕いもせず白い木綿の下着姿で屋敷の外へ出て、素足で風に吹かれながら湖畔へと歩を進め、そこで聞く者もいないのに大声で人の名を叫びます。これには驚きました。なぜこの作品はそのクライマックスで、あえて近代イングランド社会で「狂女」の類型的表現として用いられたステレオタイプをブッ込んでくるのでしょう。あの様子を森番か小作人に見られただけで、彼女は幽閉され、全てを失うことでしょう。カスティーリャのフアナ女王のように。なぜ最終盤でそんなリスクを彼女に冒させるのか。心配で心配で、スタッフロールが終わるまで落ち着いていられませんでした。この終わり方は何かを具体的に、いや、その話はやめておきましょう。

詳細評価

物語
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