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火口のふたり
2019年8月23日公開

火口のふたり

R18+1152019年8月23日公開

ta7********

5.0

他人事が遂に当事者になる日本

「愛のコリーダ」を終始思い出させる強烈な性愛のエネルギーが映画としての映像を推進する。一億火の玉、日本国民をいとも簡単に切り捨てる鬼畜政治の下、一切に背を向け臨死体験に突入するコリーダに対し、東日本大震災への負い目に支配されつつも生きる喜びとしての性愛を存分に享受する本作に、嫌らしさや暗さは微塵もなく、あたかもパゾリーニのようにおおらかに性の享楽を謳う。  同じ東北でも日本海側の秋田と言う微妙な位置、そして後半に襲い掛かる予定のディザスターが首都圏と言う妬みのような未然の悪意も正直に語られる。このタイトルにもなった火口の巨大写真ポスターを真上から見下ろすショットが素晴らしい! ひょんな事からディザスター予告を知ってしまった二人を繋ぐのがこのポスターで、でも秋田までは「飛散」しそうもない、で、手を離せばクルクルとポスターが巻かれる仕掛けが見事。唐突に訪れる賢治の美術館訪問に展示室全体を引きで描くシーンの中にしっかりとこの爆発がモチーフの絵が有る仕掛けも利いている。やはり終末直前の刹那がコリーダ同様に圧し掛かる。  登場人物は本当に2人だけ!街に出れば背景に人は沢山ですが、ほとんどセリフは無しの思い切った作劇。冒頭の再会しばらくはもたもたするが、セックスの号令と同時に一気呵成でラストまで進む。2人はほとんど全裸でいるわけで、その享楽ぶりの激しさには圧倒され、安藤サクラが心配になってくる程。柄本佑はNHK朝ドラで宮崎あおいからセリフで「白蛇」と呼ばれ、案の定本作でも瀧内公美から「蛇」に例えられるのには笑ってしまう。そう、本作はコメディと言う方が正しいのかも知れない。妙にリアルな会話の節々にアルアル共感笑いを観客から引き出す。この素晴らしい女性像を見事に画面の中で生ききった瀧内公美、実績も多数あるようですがちょいと思い出せず、殆ど初見かもしれないが、まあ見事。男の視点と女の理解の相違を嫌味なく表現し、全裸フルショットも美しく日本的ジメジメ感が皆無。それでいて服を着ていると、まあいい女!  セックスを描かせたら敵なし状態の荒井晴彦・監督としてもベストに近い傑作の誕生です。念のために申し添えれば、どれ程に激しくともそれは見事な演技であって、本番のコリーダとは決定的に異なる。

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