ここから本文です

火口のふたり (2019)

監督
荒井晴彦
  • みたいムービー 201
  • みたログ 648

3.16 / 評価:500件

出演俳優2人でキネ旬1位の話題作

今回取り上げるのは、昨年8月に公開された『火口のふたり』。キネマ旬報ベストテンでは日本映画の1位に輝き、瀧内公美がキネ旬の主演女優賞に選ばれている。瀧内さんが主演した映画の作品レビューを書き込むのは「彼女の人生は間違いじゃない」に続いて2作目だ。荒井晴彦監督の作品レビューも「この国の空」に続く2作目となる。
脚本も手がけた荒井監督は多くの話題作の脚本を書き、その中で僕は「時代屋の女房」「大鹿村騒動記」「共喰い」「この国の空」「幼な子われらに生まれ」の作品レビューを書き、レビューを書いていない映画では「絆‐きずな‐」を映画館で、「湯殿山麓呪い村」と「Wの悲劇」をテレビで観たことがある。日本の映画界に大きな足跡を残した人なのだ。

原作は白石一文という人で、2010年に「ほかならぬ人へ」で直木賞を受賞したことがあり、2012年に発表した『火口のふたり』が初の映像化となる。本作がキネ旬1位という栄冠を得たことで、今後さらにこの人の小説が映画化されるのか注目される。直木賞受賞作で映像化され話題になったものでは、「蜜蜂と遠雷」やTVドラマになった「下町ロケット」などがある。
本作は基本的に瀧内さんと柄本佑の2人だけが出演しているが、柄本演じる賢治と電話で話をする父親の声は柄本明である。また瀧内さん演じる直子のセリフに出てくる、彼女の婚約者である自衛隊員の存在も忘れてはいけない。2人が買い物に行ったり外食したり、お祭りを見物したり屋外に出るシーンが多いので、出演者が少ない割にそれほど内向的な感じはしない。

映画を観て思い出した歌が、沢田研二の「時の過ぎゆくままに」だ。♪時の過ぎゆくままにこの身を任せ、男と女が漂いながら、落ちて行くのも幸せだよと、ふたり冷たい身体合わせる~という歌詞が、映画の内容にはまっていた。歌の最後にある♪もしも二人が愛せるならば、窓の景色も変わっていくだろう・・・という箇所は、映画の結末とリンクしているように思えた。
舞台は秋田県で、東北六県の中で唯一東日本大震災の死者がゼロだった県である。地方都市の閉塞感はさほど描かれず、直子の新居から見える日本海の眺めや秋田新幹線など解放感のある風景が多い。とりわけラスト近くで海岸に林立する風力発電の巨大プロペラの眺めが忘れられない。なんとなく大震災を経験した後の日本を象徴する景色という気がする。

キネ旬1位に選ばれるほどの映画ならば、他の作品にはない「凄味」みたいなものがあるはずだ、本作の凄味とは何だろうという興味を持って観ていた。ここからはネタばれになるが、日常が静かに異常な世界に侵食されていく、その境界を描いていると思った。新型コロナウィルス肺炎の感染拡大により、市民生活が大きな制約を受けている現在の状況とよく似ている。
タイトルにある「火口」とは富士山を指し、直子は上空から火口を写したポスターを気に入っていた。自衛隊員との結婚式が急遽取りやめになり、これは直子が賢治との関係を婚約者に白状したかと思っていると、自衛隊に極秘任務が下されたからだという。それにしても結婚式をキャンセルするほどの任務って?直子は自衛隊員のパソコンを検索し、ついに秘密を突き止める。

なんと富士山が近く噴火するのだという。富士山の溶岩はサラサラしているので、浅間山のような激しい噴火はないと言われているが、日本一の高さで首都圏の近くに位置している。予測される被害は甚大で、東京の首都機能は降灰のため完全に停止する。逆に言うと日本が経済大国にのし上がったのは、富士山が休んでいたわずかな期間であったというわけだ。
映画の舞台は秋田県で、ただちに富士山噴火の直接的影響は受けないが、テレビニュースは来るべき噴火の危機的予測を伝えている。この状況で直子も結婚どころではなく、終わるはずだった賢治との関係は続くことになる。噴火する富士山の絵に爆発音がかぶさり、きわめて個人的な男女の問題に、日本の国難というべき大問題が割り込んだところで映画は終わる。

展開が急転するのは映画のラスト30分ほどで、それまでは5日間の逢瀬が終わった後で、二人は各々の人生を送るために別れるのだろうと思っていたからかなり戸惑った。しかし思い返してみると、こういう結末に至る伏線が張られていたと気付いた。一つは直子の結婚相手が自衛隊員で、折りにふれて富士山や東日本大震災の話題が出てくるのもそうだ。
そしてクライマックスで、西馬音内の盆踊り大会を見物に行くシーン。踊り手の中には黒い頭巾をかぶって顔を隠した者もおり、死者の踊りを意味するという。二人は見物の後に黒を基調にした雰囲気のいい酒場に入り、踊り手の衣装を着た人たちも入ってくる。この場面が強く印象に残っており、観終わった後ではこの酒場は「あの世」を象徴しており、これから日本が辿る運命を先取りしていたと気付くのだ。

詳細評価

物語
配役
演出
映像
音楽

イメージワード

  • パニック
  • 不気味
  • 絶望的
  • 切ない
  • セクシー
  • コミカル
このレビューは役に立ちましたか?
利用規約に違反している投稿を見つけたら、次のボタンから報告できます。 違反報告
本文はここま>
でです このページの先頭へ