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犬鳴村 (2019)

監督
清水崇
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2.64 / 評価:726件

永遠の迷子

  • kfe***** さん
  • 2020年3月8日 14時05分
  • 閲覧数 1618
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    • 総合評価
    • ★★★★★

聞いた話では、世のホラー映画は大まかに言って、二つの型に分別されるそうである。曰くに、一つは「主人公に殺された・傷つけられた者が、恨みの余りに化けて出た」という様な、「恨」を基礎に据えた因果型。もう一つが、「主人公に何の落ち度もないのに呪いにかかる」という様な、「不条理」を基礎に据えた無因果型。

しかし、二つあるとは言いつつも、数が多いのは明らかに「恨」の物語である。それもそのはずで、「恨」の感情と「恨みを晴らしたい」という感情は、人間に備わった根源的かつ普遍的な感情である故に、霊の行動原理は勿論、それが引き起こした怪奇現象すらも、誰にでも共感・理解できるのだから。逆に、何の理由も無くただただ怖い目・酷い目に遭い続ける物語など、普通生活を送る人間にはそうそう共感・理解できない。カフカの『城』的状況に、誰も共感できないのとほぼ同じ理屈である。

本作もまた、犬鳴村なる村で起きた惨劇に起因する呪いの物語なのだから、一応は「恨」の物語となるのだろう。が、私はどうもこれに素直に頷けない。むしろ、「不条理」系に属するような、あるいは、もう一歩進んだ「現代文学」系物語とさえ思えるのだ。

その理由としてあげられるのが、第一には「時系列の混乱・混在」である。本作は終盤にかけて現代と過去を行ったり来たりするのだが、その描写がかなり曖昧で、観客は「これは過去現在のどっちだ?」と惑わされる事となる(私も相当惑いました)。この「超時間的描写=時間の混ぜこぜ」は、現代文学作品や現代音楽作品にまま見られる手法である。

その第二としてあげられるのが、「物語の枠組みの崩壊」である。先に挙げた主人公の過去世界への旅は、とある霊による導きによるものなのだが、その際に「生身の人間が幽霊に直に触れる」という、ホラー映画としてあるまじき現象が起こるのである。ホラー映画の怖さというのは、生身の人間からは干渉が出来ない異物に、一方的に脅かされるという無力感から来るものだろう。しかし、幽霊と物理的なコミュニケーションが取れるなら、アクション映画の様に相手を殴って一発解決である。こうして「これ何の物語なん?」と、読者を混乱させるのもまた、現代作品の兆候である。

その他にも、本筋とはまるで関係ない殺戮や、何か意味がありげで結局何の意味も無い小道具、中々に理解しがたいストーリー展開など、「意味の放棄」という現代文学を思わせる要素も満載で、それに花を添えるかのように、玩具の様にチープで紋切り型な心霊現象があふれ返る。このデタラメさに満ちた作品が、明確な意図の下に作られていたのなら、私は間違いなく満点を与えていただろう。

しかし残念ながら、本作にそんな意図は一切無い。人目を引きそうなショッキングな映像を、盛り上がりそうな映像を、「場当たり的」に繋いで行った結果、「偶然」にそうなってしまっただけの話である。その根拠として挙げられるのが、本作を作った日本人(監督並びに一般の人々)の歴史観である。

自分たちの役に立ちそうな物が手近にあれば、それを借りて自己流に(本来的なあり方・使用法を無視して)アレンジする。そして、時間の経過と共にそれに自信と誇りを持ち始める。だが、それが機能不全を起こすや一夜にしてそれを捨て、別の何かにサッと乗り換える。そして、それ以前の自分たちの有様を一切忘れる。これが日本の歴史の概略であるのだが、具体的には、明治維新と8月15日の前後の社会の有様を思い起こせば、それは一目瞭然であろう。

そこには(本質的な意味で)「今と連続する過去」はなく、時々の状況により「未来予想図」もころころ変わるので、「今と連続する未来」もない。つまり「永遠の今」しかない。その「永遠の今」の中で、「場当たり的に」役立ちそうな物を掴んでは捨てる。そこに筋の通った物語だとか、前後のつながりだとか、人間の本質的あり方だとかが、あろうはずも無い。これが現代文学でなくて何なのか。

しかし繰り返せば、それは歴史の連続・積み重ねの末に辿りついた現代ではない。迷子の末、偶然そこにたどり着いてしまっただけの話である。つまり、本作はその日本人の有様を如実に表現した、しかも監督本人が意識せずに表現したという点で「実に日本人らしい作品」である。本作の監督がその事実に気づく日が来る事を、私はただ祈るばかりである。

詳細評価

物語
配役
演出
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音楽

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