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グッドバイ ~嘘からはじまる人生喜劇~ (2019)

監督
成島出
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3.33 / 評価:606件

太宰治の未完の遺作を元にしたコメディ映画

今回取り上げるのは、今年2月に公開された『グッドバイ~嘘から始まる人生喜劇~』。成島出監督の作品レビューを書き込むのは「孤高のメス」「八日目の蝉」「山本五十六」「草原の椅子」「ソロモンの偽証(前後編)」に続いて6作目だ。コメディ映画としてたいへん面白く観ることができ、終盤の急展開にも素直にハラハラさせられたので、私的評価は★5つだ。
このような大人の観客向けのコメディ映画は、むかしは「寅さん」や「釣りバカ」シリーズなど隆盛を誇ったが、最近はいま一つ勢いのないジャンルである。こういう映画がたくさん作られて、商業的に成功する日本映画界であってほしい。

中学校の授業で「走れメロス」を学んだとき、太宰治の遺作が「グッド・バイ」であることを知った。高校の授業では、「津軽」の一部分を学び、自分の子守をしてくれた女性と再会する場面をテープの朗読で聴いたことがある。
太宰の小説を基にした映画で僕が観たのは、本作のほかに「ヴィヨンの妻」だけだ。ちなみに映画本編では『グッドバイ』というシンプルな題名のみ表示され、「嘘から始まる人生喜劇」という副題は出てこない。副題の部分はキャッチコピー的な扱いなのだろう。

原作は太宰の「グッド・バイ」をケラリーノ・サンドロヴィッチが演劇にしたもので、成島監督が舞台に出演した小池栄子を見て映画化を希望したという。小池は成島監督の「八日目の蝉」「草原の椅子」でいずれも重要な役を演じており、とくに「草原の椅子」での狂った母親役はインパクトがあった。監督は小池の女優としての魅力を発掘した人でもある。
小池はむかし阿川佐和子のトーク番組に出演したとき(たしか「草原の椅子」の頃だったか?)「最近私、まともな女性の役が回ってこなくて・・・」とボヤいたことがある。しかしこの経験が回り回って、本作のようなバイタリティーのある魅力的な女性の役に結びついたのだから無駄ではなかったわけだ。

太宰の「グッド・バイ」は未完の小説で、書籍化されているが僕は読んだことがない。主人公・田島周二(大泉洋)の運命が激変する終末部は、小説にはないオリジナルだと思う。妻子がありそれなりの地位にある人物がアクシデントをきっかけに記憶をなくし、何年も彷徨するという物語は朝ドラの「ひよっこ」でも描かれたが、昔はよくある事だったのであろうか?
脚本の奥寺佐渡子は細田守監督のアニメ「時をかける少女」「サマーウォーズ」「おおかみこどもの雨と雪」が有名で、ほかに「学校の怪談」シリーズなど家族向けファンタジー映画のイメージが強い。成島監督とは代表作の「八日目の蝉」で一緒に仕事しており、僕の好きな脚本家である。

時代背景は昭和20年代前半で、戦後の混乱から復興・経済成長にさしかかる時代である。戦後の貧困にあえぐ者と、時代の変化にうまく乗って成功を収める者の両方がおり、要するになんでもありの時代だった。当時の風俗を再現する難しさはあるが未来への希望があり、映画化に向いた魅力的な題材が眠っている時代なのだろう。
もう一人の主役・永井キヌ子(小池)が薄汚れたモンペ姿と昭和レトロ風に着飾った姿を見せるが、この相反する姿は当時の日本そのものを象徴しているわけだ。キヌ子の生業は「担ぎ屋」で、終戦後に闇物資を地方から都市に密かに運んで売り、賃料を得る仕事があったのだ。

田島の仕事は文芸雑誌の編集長であり、彼の浮ついた言動は戦争が終わって様々な不自由から解放された日本を象徴している。この時代は雑誌や書籍が飛ぶように売れたそうで、さまざまな人と付き合いを持てる羽振りのいい仕事なのだろう。大泉は丸眼鏡姿がよく似合っており、彼もまた洒落たスーツ姿と自分自身を失くしてボロボロになった姿の両方を見せる。
キヌ子以外で彼の関わる女性を登場順に挙げると、日本橋で花屋を営む緒川たまき、挿絵画家の橋本愛、かかりつけ医の水川あさみ、そして青森に疎開していた妻の木村多江である。この中では、薄幸さと化けて出そうな怨念を感じさせる緒川が存在感を放っている。彼女たちは終盤で「田島さんの思い出を語り合う会」を結成して、意気投合して食事会まで開くのがおかしい。

田島は雑誌の仕事だけでなく闇物資の売買をやって儲けており、担ぎ屋をしているキヌ子との縁が生まれるわけだ。前述した愛人たちと円満に別れ疎開していた妻子を呼び寄せるために、キヌ子に金を払って妻を演じてもらうのがメインのストーリーである。煤けた姿だったキヌ子が着飾ると驚きの美女に変身。このへんは「マイ・フェア・レディ」を思わせる。
節操のない田島がキヌ子に惚れてしまい、強引に迫るものの強い腕力で返り討ちにされてしまうのが笑いどころである。大泉の優柔不断さと小池の逞しさがうまく作用して、最後はすがすがしい気分になれるコメディ映画であった。

詳細評価

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