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テリー・ギリアムのドン・キホーテ
2020年1月24日公開

テリー・ギリアムのドン・キホーテ

THE MAN WHO KILLED DON QUIXOTE

1332020年1月24日公開

alm********

5.0

ネタバレ間違いなく人を選ぶ映画。俺は気付かされた

ギリアム作品がまあまあ好きなんだ、俺は。でも、間違いなく今作は人を選ぶ気がする。 冒頭、「25年の時を経てついに公開」みたいな字幕が入る。もうね、こんな映画に20年以上費やすってね。ジジイが風車に突っ込むのが、何がそんなに楽しいんだよとね。失敗続きで、でもその後も諦めきれずにやっと完成しました、ってね。それ、その事前情報込みで、俺は「ああ、このギリアム監督は自分自身がドン・キホーテだと思ってるんだな」といたく感じたわけよ。映画の序盤から。 分かる。20年以上かけてこんなもの?中途半端なファンタジーじゃない?そんなに新しい演出もないし?頭おかしくなったじいさんに映画監督が巻き込まれるだけでしょ?これそんなにいい映画?みたいな感想が今後も並んでいくだろうことは容易に想像できる。分かる、その感覚は間違っていない。 でも、俺はこの映画で感動してしまった。もう冒頭からラストに至るまで、この監督が意図したであろうことが、まあ伝わってきたのよ、残念ながら! すげえ一生懸命に作ったものが「つまんね」と片づけられるような経験をしたことがある者には刺さるかも。いや刺さらない方がむしろ幸せかもしれない。 もとの原作の『ドン・キホーテ』の物語、映画内でトビー監督が若い頃に撮った映画、さらに今現在トビー監督が撮影している『ドン・キホーテ』、さらにリアルでこの映画を作るまでに何回も頓挫したギリアム自身の物語、この二重三重の構造がまず面白い。 今作は、見ようによっては「ファンタジーに見えるものは全部作りもの。ファンタジック描写は登場人物の妄想によるもの」としている点がいい。 風車が巨人に見える。わけねえんだ。その事実を冒頭の撮影風景で示す。そして、中盤でキホーテじじいの風車突撃で示して、終盤にはキホーテサイドに落ちたトビーの突撃で見せる。この構造よ。 ギリアム監督は何度でも風車に立ち向かってるわけよ。頓挫して「もうダメだろ」と思われても再び映画製作に乗り出す。まさにドン・キホーテそのもの。俺、この映画が公開するって聞いたとき「まだ諦めてなかったの?バカなの?」って思ったもん。そう観客に思わせてこそなんだよ。俺自身がドン・キホーテを笑う側だと気づかされたわけよ。 映画を作る、何かを作る、ってことは、風車を巨人だと思って向かっていくことなんだよ。いやというほど俺達は思い知らされてるよな。金がない、時間がない、自信がない、共感してもらえない、様々な自分への言い訳を用いて自分の中のドン・キホーテを殺しちまうわけよ。 原題は『ドン・キホーテを殺した男』で、これは30年前から変わってない。そう。ギリアム監督自身も自分自身で何度もドン・キホーテを殺してきた自覚があるんだよ。でなけりゃこのタイトルつけないだろ。 映画の中で、「お前が映画撮ったせいで人がおかしくなった」みたいな台詞でトビーが責められるシーンあって。まあそうだ、映画に限らず規模が大きい表現って、多くの人に迷惑かけまくって出来るもんだよな、と感じるわけだ。 あるいは騎士の恰好してドンキじじいにわざわざ馬勝負を挑んでから村に連れ戻そうとする人もさ、あれぞまさに良識の象徴よ。良識ですらドン・キホーテを殺しうるんだよ。 結局、金がものをいう世界だからさ、ラストの豪華セットもロシア富豪のおかげですーと説明してくれるわけだ、ご丁寧に。この金持ちの城でさらし者にされたあげく、落下して死ぬじじいの話なんだよ、今作は。その滑稽さと表裏一体のもの悲しさ。でもその先にある、まさにスターウォーズ出演者が演じる新たなる希望。 最後さ、ちょっとした事故でドン・キホーテじいさんが落下して死ぬわけじゃん。原題タイトル回収の意味以上に、あそこでドン・キホーテじいさんが「自分は靴屋で」「保険のCMに合う言われて」うんぬんとさ、自分のリアルを自覚していたこと(あるいは思い出したこと)を話すわけじゃない。 これなんだよ、このもの悲しさ。何かを作ることってこういうことだよ。頭のどこかで自分がやってるバカなことに気付いてるんだけど、心が、体が先に動く、みてえな。 で、新たにトビーがドン・キホーテになってしまうその業の深さ、まぶしくて痛くて笑うしかねえほどの新たなる希望。 どんなにバカにされて笑われて貧乏で見すぼらしくて狂ってて共感されなくても、あるいは不慮の事故で死んでも。立ち向かう精神は誰かに引き継がれてずっと生き続ける。だから、『ドン・キホーテ』という物語は何百年と残っているわけだし、この映画が30年かかったのも必然だったんじゃないかとすら思う。 映画館から出て街を歩きながら、ああ、俺も自分の中のドン・キホーテを何度も殺してきてたんだなあと思って、ちょっと涙ぐんだ。 全然おすすめできないけど、刺さる人には間違いなくキホーテの槍が刺さる。そんな映画よ。

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