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浅田家! (2019)

監督
中野量太
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3.97 / 評価:1988件

東日本大震災の避難所の描写に胸が痛む

今回取り上げるのは、昨年10月に公開された東宝映画『浅田家!』。中野量太監督作品のレビューを書き込むのは「湯を沸かすほどの熱い愛」「長いお別れ」に続いて3作目だ。興行収入は12億1千万円と健闘し、日本アカデミー賞では主人公・浅田政志(二宮和也)と結婚する幼なじみ・若奈を演じる黒木華が最優秀助演女優賞を受賞している。
浅田は父親(平田満)からカメラを譲り受け、試行錯誤しながら写真家への道を歩み出す。二の腕から胴体にかけて極道のように彫り物を入れ、むさくるしい長髪髭面姿を見せるなど、ポスターで見せる好青年風の二宮とは一風違うやさぐれた姿を見せる。二宮の主演した映画を観るのは4作目だが、初めて平凡な中年男性としての表情を見せてくれた気がする。

黒木華についてだが、二宮と一緒に写ると顔の小ささと細身のスタイルが強調される。故郷の三重県津市から一足先に上京してアパレル業界に就職するが、社会人になりたてなので下働きの力仕事が中心である。激務で掃除する暇もないのか、自宅アパートの部屋は散らかっている。折れそうになる気持ちを支えて頑張る若者の姿を、黒木さんは上手く演じていた。
他に注目すべき登場人物を挙げてみると、浅田の個展を見て気に入り彼の写真集を出版する、お酒好きな出版社の社長(池谷のぶえ)。被災した写真を洗浄し、家族に返すボランティアをやっている大学院生の小野。菅田将暉のスターのオーラを完全に消した演技に注目だ。そして浅田に家族写真の撮影を依頼する、様々な背景を持ったご家族も忘れてはいけない。

私的評価は★5つ。中野監督の映画では「長いお別れ」ほどではないが「湯を沸かす・・・」よりは好きである。前半は浅田が写真家として認められるまでの苦闘を描き、後半は東日本大震災の被災地におけるボランティア活動が中心となる。浅田が行くのはかつて依頼されて家族写真を写した岩手県で、決して絶望感が支配するだけではない避難所の描写が観どころだ。
かつてアメリカを大竜巻が襲ったニュース映像を見たが、避難した大柄な黒人男性が泣きながら「家が壊れてしまった。何とかこれだけは持ち出せたんだ」と一枚の写真を差し出す場面があった。この男性は日本の地震被災者や本作に登場した遺族と同じ目をしていると思った。病気で肉親を亡くした僕も含めて、大切な物を失くした人に共通する目かも知れない。

被災地の描写で最初に目を惹くのは、震災前はどんな街並みが広がっていたのか想像するのも難しい廃墟の風景である。道路の部分のみ瓦礫が取り除かれ、復興のため自衛隊が大急ぎで輸送路を確保した事が分かる。初めて観た時は本物の被災地でロケしているのかと思ったが、大災害の現場で劇映画のロケができるわけがなく、やはりセットを組んだのだろう。
特に心が痛むのは、車の残骸を片付けようとする男性にカメラを向ける報道陣の姿である。写される男性も脇を通り過ぎる浅田も、腹を立てるというよりも怒りの感情をあえて封印しているようだ。積み上がった瓦礫の脇に花束を手向ける人々がいて、この場所で亡くなった親族がいるのだろう。こういう場面を見ると、自分は震災の事を何も知らないと実感する。

震災のボランティアをやった方に話を聞いた事があるが、被災者にも様々な被害状況の方がいて、中には自宅は無事だったがライフラインが使えず食料がないため、やむ無く避難所に来る人もいる。そんな人に「あいつは家があるくせに・・・」と陰口を叩く人もいて、言われた方は耐えられず、わざわざ遠くの避難所へ行って食料を調達する、という辛い話があった。
本作でも避難所で、被災した写真を返す活動をするボランティアに向かってやり切れない怒りをぶつける被災者(北村有起哉)がいる。良かれと思ってやった事が、必ずしも全員の共感を呼ぶとは限らないのだ。とは言え避難所にいる全員が悲しみに沈んでいるわけではなく、結構笑顔の人もいる。自衛隊の設置したお風呂を利用しに来る人々の明るい表情が印象的だった。

瓦礫の撤去作業を行う自衛隊は、その中に写真のアルバムを見つけると捨てる事なく、被災者が見つけやすいように瓦礫の片隅に重ねて置いておくという。こういったエピソードは、実際に被災地で活動した人でないと分からないだろう。劇映画において役者やエキストラがセットの中で演技しているとは言え、こうした場面があるお陰で本作は価値がある、と言える。
本作で一番胸を打つ場面を挙げてみると、浅田に家族写真を撮ってもらう母親が、難病の息子を背中に乗せて涙声で子供の成長を喜ぶ。カメラを向ける浅田の目も涙で赤く濡れて怒ったような表情になる。子供の病気や震災の犠牲者を感動のネタに使っていいのか?そんな後ろめたい気持ちはあるが、映画にするべき大切な真実がこの場面にはあると信じている。

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