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ハリエット
2020年6月5日公開

ハリエット

HARRIET

1252020年6月5日公開

yrh********

4.0

知っているようで知らない黒人奴隷史。必見

実話というのが凄い。知らないことがたくさんあった。ハリエットの不屈の精神と知力・体力を持ってしても、どうして何度も何度も逃亡を成功させることが出来たのか不思議だ。作中では本人が強く神の力を信じていたということだったが、「自由か死か」と腹を据えた彼女の判断には迷いがなかったのだろう。こんなにも「軸がブレない」主人公を久しぶりに見た気がする。モーセと呼ばれた彼女の首には多額の賞金がかけられていたという。また、逃亡奴隷を支援する秘密組織「地下鉄道」には、「若草物語」のオルコットら有名人も深く関わっていたらしい。 Black lives matter運動に見る通り、2020年現在でもいまだに人種差別は色濃く残る。人権問題として決してアメリカだけの問題ではない。黒人史に関しては本や映画である程度は知っているつもりだったが、知らないことがまだまだこんなにたくさんあることに気づかされた。 舞台は奴隷を解放した自由州と奴隷州が混在する南北戦争前。黒人の中でも、自由黒人と奴隷との間には格差がある。黒人奴隷と自由黒人が結婚しても別居婚で、生まれた子供は奴隷扱いとなる。 白人にとって所有する奴隷の数がステータスになり、土地と同じく重要な財産。だから奴隷の逃亡はオーナーたる白人にとってとんでもない損失であり、どこまでもしつこく追い込みをかけてくる。 逃亡奴隷に剛を煮やした南部州の要望で逃亡奴隷法が制定され、州を跨いだ奴隷の返還が規程された。これによって逃げ切った自由黒人も恐怖に晒されることとなった。 白人側の被害者意識も興味深い。彼らにとって所有物である奴隷が義務を放棄して逃げ出すなんてとんでもないことなのだ。変な話だが、この時代の白人奴隷主たちに、別に悪意はない。時代の常識通りに奴隷を奴隷として当たり前に扱っているだけのこと。これは恐ろしい。現代の私たちも、後世の人から見たら実はとんでもない非人道的なことを行っていたりするのかもしれない。 無闇に奴隷を虐待したりしない優しい白人も大勢いただろう。しかし、慈悲深かろうが残酷だろうが、奴隷主は奴隷主だ。 主演のシンシア・エリヴォはミュージカル出身らしく、劇中で何度も口ずさむ黒人霊歌には心震える。また、奴隷解放に尽力する自由黒人を演じるジャネール・モネイの最後は痛ましいことこの上ない。人種間の問題だけでなく、黒人の中の立場や生き方の近いが多彩に描かれている点も魅力だった。

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