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ムヒカ 世界でいちばん貧しい大統領から日本人へ
2020年10月2日公開

ムヒカ 世界でいちばん貧しい大統領から日本人へ

982020年10月2日公開

mat********

5.0

全日本人が括目してみるべき一本

と、大げさなタイトルにしたが、この作品が我々に問いかけている命題は恐ろしく多い。 ホセ・ムヒカ氏の根本論は、「誰もが幸せになること」であり、それは物欲、金欲では満たされない、ということを常に言っている。「足るを知る」「身の程にあった生活」こそが重要であり、より高く、より多く、より裕福になることは際限なく資源も時間も、人間関係さえも消耗する。それで幸せになったといえるのか、というところである。 この作品は、取材当時、テレビ局員だった監督が、取材のために会った大統領の「そこまで日本を知っているのはなぜ?」が噴出したことがきっかけになっている。 何度かの往来で、監督は大統領と仲良くなっていく。だが、彼が思い描く未来予想図と世界はどんどんかけ離れていく。怨嗟が怨嗟を呼び、資本主義の悪い部分だけが際立ってしまっている。 彼が来日したときの彼の曇ったような表情が印象的だった。「なぜ、日本人モデルを使って広告宣伝しないのか?」は、広告を出している企業が外資系であっても、目から鱗だった。実際、自国民を使って広告宣伝しないといけない国もあることは知っていたのだが、これをズバリ言えることが素晴らしいし、ショックでもあった。 彼にしてみれば、日本とウルグアイの、昭和初期の移民たちとの交流がバックボーンにあり、その時の勤勉で何一つ文句を言わない移民たちに感銘を受けていたところが大きかったはずだ。ところが、それから敗戦を経た日本は、精神的により成長していると思っていたのに、そこにあったのは退廃し、欧米化してしまった日本だったのだ。 訪日した際、一番輝いて見えたのは、やはり若者との交流だろう。子供ができなかったから(苛烈な反政府運動の果て、投獄されていたから)といって、悲観することはない。自分にはなくて他人にあるもののために生きることもまた人生。だから私は他人の子供であっても自分の子供のように思っている、という演説は、直後に奥さんが録られていたこともあるのだが、さすがにたまっていたものが吐き出されてしまった。 いくらムヒカ氏が偉大でも、「今からこの聖人君子みたいな生活、始めまーす」となりようがない。ただいえることは、「少し何もかも見直してみませんか?」というきっかけにこの映画がなってくれればそれでいいと思っている。経済、文化、芸術、歴史。日本国のことをここまで憂える人はそう多くはない。彼にはなれないが、彼の想いは受け止めたい、と思える作品だった。

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