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ナイチンゲール
2020年3月20日公開

ナイチンゲール

THE NIGHTINGALE

R15+1362020年3月20日公開

ryo********

5.0

ネタバレ俺はアボリジニで行く!

ようやく再上映の最終日最終上映に間に合った。   侵略、蹂躙、全てを奪って所有するという暴力の歴史を歩んできた世界を描いた社会派な作品。   キューブリック「時計じかけのオレンジ」やギャスパー・ノエ「アレックス」、あるいはペキンパーやタランティーノみたいに過剰なバイオレンスシーンに嫌悪感を示す人もいるだろうけど、それは全くの正解で、監督の意図が成功した証。 僕も、とことん残忍でゲスな英国人の暴力の数々を、目を凝らして見なくてはならないという謎の使命感だけをよすがとして頑張りました。赤ちゃんの泣き声がもたらすサスペンスに震えながら…   19世紀、英国植民地時代のオーストラリアが舞台。 女性、先住民、白人の囚人、部下など全てを見下している英国のゲス将校に、体と尊厳と家族の全てを奪われ、リベンジに燃えるのが主人公、アイルランド人のクレア。受け続けてきた恥辱を夫にひた隠し、耐え、泣き叫び続けた序盤から、もう我慢ならんとつり目で反転攻勢に出る中盤の展開は、そこだけ見ればリベンジものの作品がいくつか頭に浮かぶけど、リベンジして主人公も観客も溜飲が下がるなんていう単純な物語ではなかった。   赤ちゃんを殺めた憎き軍人ジャゴを(註1)、反撃されながらも100倍返しで討ち果たすクレア。このシーンも凄惨を極めます・・・ ところが、いざ、自分を何度も蹂躙し続けた将校と軍曹を見つけた時、銃を撃てずに怯み、逃げてしまう。疲れもあり、殺めた軍人の夢を何度も見て、もう復讐などどうでもよくなってしまう。もちろん、許すなどということではないけど、同じ土俵に立ってしまった自分も殺人者で、なにより、失ったものは何一つ戻らない。圧倒的な喪失感をこの時にこそ覚えたのか。食べるために殺めた有袋類を虚ろな目で見下ろす短いワンカットが象徴的。 註1:オーストラリア在住の友人が教えてくれたんですが、あの軍人ジャゴを演じた俳優ハリー・グリーンウッドって、オーストラリアを代表する俳優ヒューゴ・ウィービングの息子さん!   成り行きで、リベンジロードの案内人を務めることになった、アボリジニのビリーが、物語を俯瞰で見た場合の主人公という設定に気づいた時、鳥肌が立った。 家族を英国人に殺され、その英国人に英語を教え込まれて生きてきた彼は、彼らに名前で呼ばれることはなく、俗称は「ボーイ」で、そこには強い侮蔑の意味が込められている。アイルランド人のクレアでさえも彼を見る目は冷たく、常に上からで、名前を聞くこともなくかなり乱暴に「ボーイ」と呼び続ける。これだけでも、差別というものを歴史も含めて深掘りしている作品で唸らされる。 それだけではない。 英国人かと聞かれて「イングリッシュじゃない、私はアイリッシュ」と言い、アイルランド民謡を歌うクレアと、無理やり英国人になれ的に育てられ(飼いならされ)、アボリジニの歌を歌うビリーとが、リベンジロードで互いの人生を知るにつれ共感し合っていく流れは、最悪の世界の中でこの作品が最初に見せてくれる希望だった。   「私はナイチンゲールでも娼婦でもない、クレアだ!」 「俺はボーイじゃない、ビリーだ!」 名前で呼び合い始める二人。 そして、キャッチコピーに使われているセリフが胸を打つ。 「私は、あなたのものではない!」 所有もされない、もう何も奪われないのだぞと、ついに見つけた将校に放った言葉。 でも復讐は果たさないクレア。軍人ジャゴを全力で殺したクレアの復讐はもう果たしたかのように。   そういったクレアを見続けてきたビリーが、「俺はアボリジニで行く!」とばかりに、アボリジニの闘いの装束で将校と軍曹を討つ熱い展開!ビリーがアイデンティティを取り戻す瞬間!! その前に「アボリジニにも悪い人間はいるの?」とクレアに聞かれたビリーが「いる」と答えるシーンがあり、そんな人間に対して行うアボリジニの選択の一つが殺すことであったのだ。これもまた、人種というもの、人間というものを考えさせられる場面だったし、土地から何もかもを英国人に奪われたアボリジニの復讐劇に変わるという予想外の展開に驚かされた!   ラストシーンもまた、とても印象的。 水平線の向こう側から昇る太陽を見つめながら、歌いあう二人。一切の所有はなく、自然の法則の中に帰っていくかのような、まるで人類の夜明けで、生の喜びだけがある感動的な場面だった。 二人がアイデンティティを取り戻していく物語でもあり、許せない非道に対しては、復讐ではなく、許す以外の道もあるのではないかと希望を持たせる物語でもあったのだ。   ついでに。 迫害、侵略、所有という大きな暴力。身近なところでは、資本力で地域のご商売を蹂躙する大企業や、地域に歓迎されない外資系ホテルだって、侵略や所有の暴力にほかならないと考える。   才気あふれるジェニファー・ケント監督、前作の「ババドック」観なきゃ。

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