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僕は猟師になった (2020)

監督
川原愛子
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4.24 / 評価:17件

京都郊外で猟をする一家の記録映画

8月25日(火)、渋谷のユーロスペースに『僕は猟師になった』を観に行った。記録映画を映画館で観るのは久しぶりのことだ。入場料は1200円で、その安さに喜んだら当日は「火曜サービスデー」という割引日であったらしく、平日の午前中にもかかわらずかなり客が入っていた。
映画が終わった後に近所のラーメン屋で昼食をとった。本作の罠猟師・千松信也さんが自ら捕えたイノシシの骨を出汁にしてスープを作り、近所で獲れた山菜を加えてインスタントラーメンを作って食べるシーンに影響されたのだ。
映画代が安かったので気が大きくなり、その店でいちばん高いラーメンを頼んだらステーキのように分厚いチャーシューが入っていて、映画に出てくる解体されたイノシシの肉を思い出してテンションが上がった。ラーメン一杯で「これ以上食べられない」という気持ちになったのは初めてだった。

本作を観た動機は、6月にユーロスペースで「はちどり」を観たときに本作の予告編に触れて興味を持ったのと、一昨年に原作に相当するNHKの「ノーナレ」というドキュメント番組を見たからだ。この番組は好評を博し、再放送の希望が多数寄せられたという。「ノーナレ」は文字通りナレーションがなく字幕だけで展開するが、映画は池松壮亮がナレーションを担当している。
観終わったあとの感想は、千松さんはその容姿と生き方ともにカッコいい人だということ。野生のイノシシやスズメ、鹿といった動物の肉を自分も味わってみたい気持ち。罠を仕掛ける千松さんと動物の知恵比べに対する知的興奮。そして日本は自分が思う以上に野生動物の天国であり、近年は人間よりも動物の勢いがまさっていることに対する驚きである。

僕は東京都足立区に住んでいるが、最近は埼玉県側から侵入したイノシシや鹿が大きなニュースになることがある。荒川河川敷が野生動物を運ぶ緑の回廊となって、源流部と足立区を繋いでいるのか。僕は早朝5時半頃に、自宅近くの道路で見慣れない鳥を見て、よく見たらキジだった。このキジも山のほうから荒川河川敷を通ってやって来たのだろうと思う。
千松さんの住居は京都の里山にあり、学校のチャイムや部活動と思われる掛け声が映画でも聞こえてくる。僕は兵庫県西宮市に住んでいたことがあり、六甲山地を山歩きしたときに、市街地を普通にイノシシが歩いていて驚いた。
山中の砂防ダムによって生まれた平坦地はイノシシのたまり場になっており、よせばいいのにパンの耳を投げ与えている人を見たこともある。人間と動物が過度な摩擦を起こさず、共存していくにはどうしたらいいのだろうか?

千松さんが獲物を運搬中に滑落事故を起こし、足を骨折するエピソードがテレビでも映画でもクライマックスになっている。完治するには手術が必要だと告げられるが、「罠から逃れて、足を傷つけながらも生きていく動物がいるのに、彼らと対峙する自分だけが恵まれた立場でいいのか?」と言って手術をためらう。この言葉にはけっこう考えさせられる。
先輩猟師の助手としてスズメの猟を手伝うシーンは映画オリジナルだが、スズメ獲りを生業にしている人がいるとは知らなかった。イノシシや鹿の行動を知り尽くした千松さんも、空中に痕跡を残さない鳥に対しては勝手が違い、猟師の世界も奥が深いことを実感する。
丸焼きしたスズメをタレを付けて食べるシーンは、どんな味がするのだろうという興味と、羽根をむしられて丸裸状態となったスズメに引いてしまう気持ちの両方を味わった。

イノシシの肉についてだが、神奈川県の大山に登ったときに、イノシシ鍋を食べたことがあり、味噌タレを付けた肉がたいそう美味かったのを覚えている(大山では他に豆腐が名物であり、よい水が出るのだろう)。
大山では、土産物屋の主人が「最近では家の外に植木鉢を置いておくと、夜に鹿が降りてきて全部食べられてしまう」とぼやいているのを聞いた。僕は鹿を食べた経験はないが、日本全国で数を増やして食害を起こしている鹿の肉が、美味しく食べられるレシピと共に全国の肉屋に並ぶ日が来ればいいなと思っている。
本作で映される獲物の解体はわりと抵抗なく見ることができたが、ラスト近くでイノシシの子宮から胎児が飛び出すシーンは、「この季節の猟を嫌がる猟師もいる。埋葬しなくては」という千松さんの淡々としたセリフと裏腹に心が痛むのを感じた。

最後に本作の魅力を述べると、僕たちが心の奥底に秘めている狩猟本能を満たしてくれる点であろう。僕はもちろん野生動物を狩った経験はないが、昆虫採集を趣味にしていた時期があり、これもまた狩猟本能の発露であろう。今でも野外で蝶や大型の虫を見ると目で追ってしまう。千松さんが罠を仕掛けるため山中を歩き回る場面は、昆虫採集していた頃の自分を思い出し、胸がざわつくのを感じた。

詳細評価

物語
配役
演出
映像
音楽

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