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ワンダーウォール 劇場版
2020年4月10日公開

ワンダーウォール 劇場版

682020年4月10日公開

kyo********

4.0

寛容さをなくしていく社会への錨

映画の舞台である近衛寮のモデルはご存知の通り、現存する京都大学の吉田寮である。実際には寮の存続について、昭和の時代から溝があり、長年、大学と寮自治会の間で話し合いが行われてきた経緯がある。詳しくはwikipediaを参照されたし。過去、大学当局は団体交渉に応じていたが、近年、話し合いを一方的に拒否し、2019年春、寮生20名を裁判所に訴えるに至り、現在係争中である。 細かい事情は分からないが、この映画と実際の大学当局の対応を見て浮かび上がるのは、寛容さ(異端的な少数意見発表の自由を認め、そうした意見の人を差別待遇しないこと,広辞苑)をなくしていく日本の姿である。誰しも感じることだと思うが、生活の様々な場所において、そこにいる人々の考えた方はそれぞれ違うので、すぐに合意形成を図ることは難しい。誰もがある程度納得する結論を出すには、面倒だが時間をかけて話し合いを続ける他ない。それが神様でもロボットでもなく、完璧ではない人間の取りうることの出来る数少ない手段である。 ITが発達する前の非効率で進みの遅かった時代には出来ていたことが、効率的になった分、時間が余り、余裕が生まれるかに見えたはずの現代にはむしろ軽視され、切り捨てられていくのは皮肉なことである。技術の進化に人間の進化のスピードが追い付いていかないことがその一因だろうか…。 昨今世の中が拝金主義で溢れ、映画においても廃寮にした後には、跡地に予算獲得のしやすい理工医学系の研究棟を建てる思惑があるとのことだったが、今一度、人間とは何か?人間の幸せとは何か?等を考えることのできる人文的なあの寮(学び舎)が、社会が一方向に流されるのを防ぐ今では数少なくなった錨のように思えてならなかった。

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