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上映中

護られなかった者たちへ (2021)

監督
瀬々敬久
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3.90 / 評価:2487件

問題提起作。脚本より役者が秀逸。

  • ara******** さん
  • 2021年10月16日 23時36分
  • 役立ち度 16
    • 総合評価
    • ★★★★★

今作は震災と生活保護、制度や死を扱っており、どの立場から観ても正しさを語れない。
なぜならば完璧な存在ではない人間が作る法律は完璧には成り得ないからだ。
今作を観て社会福祉問題、災害問題に対して対峙をしてこなかったことを痛感した。私は震災経験者だが痛感した。
ゆえに今作の感想は「問題提起作。感動はしない」であった。
脚本には映画であるから許されたという表現が散見された。
擬似家族となるキッカケとして震災を扱ったことは強く非難する。あの過酷さを使わないで欲しい。
震災で職員が疲れていて生活保護を断るように促したり幹子が受給者に配慮無しの映写は福祉に対して誤解を生むし、女性が単独で成人男性を拉致出来るか疑問もある。被疑者を無断で連れ出し犯人の元に一緒に行き、佐藤さんと阿部さんが共闘するご都合主義など言い出したら粗はあるが、あくまで映画だと思えば許容は出来た。
許容の要因は役者陣の熱演だ。
粗を感じる暇を与えなかった。
脚本はある程度の伏線(黄色、擬似家族の絆、佐藤さんの暗い雰囲気の理由、カンちゃんを護る理由、阿部の息子の行方など)を回収はしており、2時間の制限の中で健闘したが、それ以上に役者陣が脚本の粗をカバーしている。更に私自身観終わった後に残った心の影を考えた結果、星を4にした。粗の多さと主題歌の合わなさで満点は出来ない。
ミスキャストと挙げるならば吉岡さん、林さん。他の役者陣はお見事。
悪役となった瑛太、緒方さんの2名が素晴らしいだけに吉岡さんと林さんは悪目立ちしていた。勿体ない。
佐藤さんは表情や台詞だけでなく姿勢や箸の持ち方、食べ方だけで「利根」の人物像を描いた。中盤から後半で見せた優しい姿は倍賞さんとカンちゃんの影響だろう。
最も秀逸だったのは、清原さん。
同年代で彼女に敵う役者はいないのでは?
清原さんは登場したカットから最後まで怒っていた。怒りの表現方法が異なりはしたが。
阿部さんが幹子に言った「貴方はなぜ強くいられるのか?」の答えは底知れぬ怒りだ。
幹子はあえて冷静さを意識していると演技で伝わってきた。本当は恐ろしい程の負を持つ女性だと分かるのが凄かった。
段々と力が入り激情を堪えきれない姿、狂気、遺言を読んだ一瞬の演技、佐藤さんの腕の中で「カンちゃん」に戻る。息を呑んだ。清原さんの独白は数分だったが圧巻だった。

佐藤さんは動から静へ。清原さんは静から動へと2人は対比をした。
倍賞さんの「笑顔で」という言葉は2人に弾ける笑顔とハニカム笑顔を届けたが、亡き後から笑顔を失う点がシンクロしていた。家族以上の家族だったのだ。
佐藤さんは擬似家族との交流から護りたい存在が蔑ろにされたと行政への怒りが過激な行為になった。これは相当難しい演技だったはず。佐藤さん上手い。
そして清原さん。
彼女の起用は佐藤さんとの対比を表す肝だ。
葬儀場で吉岡さんの言葉が2人のシンクロに亀裂を生んだ。
最初は佐藤さんだけが映り、吉岡さんの言葉に共感したかのように印象づけたが、後半の同じ場面での清原さんの目の変化。
呆然とした目に徐々に負の光が宿っていった。
憤り、不条理、悲しみ、自身の無力感を台詞無しで目で伝えてきた。
瑛太、緒方さんの非情な言葉の後押しに対して「終わらせない」と声が聞こえた気がした。
震災時のぶつけられない負の感情ではなく、ぶつける相手がいる負の感情に対峙した時の演技でこれ以上は無理ではないか?と思った。

殺すほど恨む?役人が悪者か?と疑問も当然生じるが、幹子にとっては倍賞さんは極限の事態の時に支えてくれた第2の母であり護り合う存在だった。
現実の殺人も理由は理不尽なものが多い。
幹子は2度母を失い、笑顔を護れず泣きじゃくった。これ以降カンちゃんとしての笑顔は消え、冷静な幹子となった。
倍賞さんの死は保護がなければ予見出来たことであり、思春期の感情として、不条理を受け入れる心の整理は困難だったと考えれる。
なので復讐の動機として身勝手ではあるが成立すると感じた。
そして幹子は佐藤さんとは違い、倍賞さんにも怒りを持っていた。図太く声を上げなかったことを。
だから自らが直接弱者を護る為に役所で働き、不正は許さず、最後はSNSに書いた。
SNSは佐藤さんを護る意味もあったはずだ(元々は佐藤さん不在の間に犯行に及ぼうとしていた)
ここも佐藤さんと対比し、佐藤さんは感情のままに放火したが模範囚で過ごし復讐をやめたのに対し、幹子の業火は時では癒えず、佐藤さんが服役したことでより燃え広がったはずだ。また家族を奪われたと。
業火を消せるのは同じ想いの人にしか出来ない。だから佐藤さんは自己を犠牲にして幹子の元に行った。

言動が対比する構図は素晴らしく演者の底力を信じなければ撮れない作品だった。
阿部さんが目立たない程の演技だ。
再見は悩むが十分問題提起は出来ており、劇場で観て欲しい作品である。

詳細評価

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