ここから本文です

ある画家の数奇な運命 (2018)

WERK OHNE AUTOR/NEVER LOOK AWAY

監督
フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク
  • みたいムービー 149
  • みたログ 201

4.28 / 評価:150件

圧倒的な見ごたえと鑑賞後の満足感

  • pha******** さん
  • 2021年9月24日 11時58分
  • 役立ち度 1
    • 総合評価
    • ★★★★★

やっぱり映画って凄いなって久々に感じた傑作。わざとらしい演出は皆無である。画家の物語のはずが、冒頭1時間は画家は登場しない。じっくりと描いていく。

時代背景はナチスドイツの最盛期から、ドイツの敗戦、東ドイツの共産主義、西ドイツへと移っていく激動期。最愛の叔母がナチスの劣勢遺伝子の淘汰政策のために安楽死させられる。しかし、それも淡々と語られる。

中盤より学生から大人になっていく主人公クルドの物語に移行していくが、ことさらに説明はなく、それでもわかりやすく物語は進行し、自分が描きたいものが見つからない苦しみから、最後、解放され、のちに現代の偉大な画家になっていくわけだ。モデルはゲルハルト・リヒターとされる。

この映画がみるものの心を鷲掴みにして離そうとしない力はどこにあるのだろうか。もちろん、時代を意識した風景や美術、衣装などは素晴らしいのだが、そこに理由があるのではないと思う。優れた小説に文字としては書かれていないが行間に作家の思いがあって読者はそれを自身の想像力で補いながら読むのが幸せであるが、この映画もあえてセリフで語らないが、例えば、義父の教授の過去の素行や、妻の夫への思い、クルドの芸術への悩みなどが痛いほど伝わってくるのだ。終盤、見る側はクルドが芸術的な壁に当たって白いカンバスに何も書けない時、その心は多分シンクロしているはずだ。だからこそ、叔母との原体験が蘇り、自身の芸術の向かう先が見えてきたときに、観客も解放感を味わう。
クルドは怒りで感情を爆発させることもないし、一見何を考えているかわからないようでいて、観客にはその心情がはっきり伝わってくる。こういうのはなかなか描けるものではない。

多くの因果が関わっているが、それらを単なる因果応報とするのではなく、例えば、あれだけプライドの高い義父はすべてを見透かされたようなクルドの絵をみて、我を失うがそれが単なる叔母への復讐というわけではない。実際、クルドは義父が叔母の安楽死の決断をした医師だとは気づいていないわけで、叔母の絵と安楽死の首謀者と義父が同じ絵の中にいるのは、クルドの人生に影響を与えた人物の集合にすぎない、すべての相関を知っているのは義父だけである。

それにしても含蓄の量が膨大な作品で、例えば、東ドイツ時代に若いクルドの才能を見出した教授のクルドが西に脱出し、彼の壁画が塗りつぶされる情景の複雑さ、西ドイツでの絵画の教授の撃墜からの敵側からの手厚い治療により今生きており、誰にも離さなかったその体験をクルドに話し、けっしてとらなかった帽子をクルドにはとってみせるところ、クルドの理解者の画家仲間など、それぞれに明確な決着は映像化されないのだが、消化不良感がまったくない。

いやー。久々に本物の映画を観た満足感でいっぱいである。唯一残念なのは、この作品、多くのヌードが登場するが、それにいまだにぼかしを入れているといころ。ポルノのように性器描写があるわけでもないのに、そこは興ざめだ。これは日本の問題であるが。

詳細評価

物語
配役
演出
映像
音楽

イメージワード

  • 知的
このレビューは役に立ちましたか?
利用規約に違反している投稿を見つけたら、次のボタンから報告できます。 違反報告
本文はここま>
でです このページの先頭へ