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タイトル、拒絶
2020年11月13日公開

タイトル、拒絶

R15+982020年11月13日公開

映画の夢

4.0

ネタバレ『タイトル、拒絶』というタイトル

『タイトル、拒絶』というタイトルを付けているのだから、この映画はタイトル自体を拒絶しているわけではないのである。本当にタイトルを拒絶し、空白にしてしまったら、さすがに製作や配給に怒られてしまう。 タイトルを受け入れつつ拒絶するというこの二重性・矛盾性は、映画の登場人物たちが抱える状況そのものを表している。 デリヘルで働くカノウ(伊藤沙莉)たちは、決して生そのものを拒絶しているわけではない。生そのものを拒絶するなら、もはや全員、自殺するしかない。カノウたちがあらがっている対象は、自分たちの人生である。この世に生を受けたという事実自体は受け入れるが、環境と選択と運不運の結果としての今現在の人生は受け入れたくないのである。 問題は、人生の拒絶は生そのものの拒絶と表裏一体であるということだ。人生への絶望は、生そのものへの絶望へと容易に連続する。生きてはいたいが人生は拒絶したいというカノウたちの思いは、『タイトル、拒絶』というタイトルのようにパラドックスなのである。 冒頭、デリへルの事務所で三人の嬢が客やオーナーの悪口を言いあっている。悪口の対象はやがて客だけでなく、デリへル嬢同士にも広がり、互いにののしったり愚痴を言ったりのエピソードが続く。店長の山下(般若)は「お前たちの不始末は全部、俺がケツをふいているんだ」と叫び、スタッフのひとり良太(田中俊介)はキョウコ(森田想)の求愛に怒りを募らせる。 登場人物の多くが攻撃的である。それはおそらく彼女・彼等が、自分たちのやっている仕事は社会の底辺のものだと考えているからではないか?(実際に底辺かどうかではなく、底辺だと思いこんでいるということである)。つまり、彼女・彼等は出発点においてそもそも、自己否定しているのである。 自己否定から自己をとり戻すにはどうすればいいか? 一般的な人間関係においては、他者を肯定することで他者からも肯定されるというのが理想的である。しかし、映画の彼女・彼等は、他者を肯定したって他者から肯定されるとは思っていない(自分たちの仕事の中身ゆえに)。であるなら、他者を否定するしかない。他者を罵倒し、嘲笑し、打ち砕くことで自己を確認するしかないのである。 <他者の否定=自己の獲得>という強烈な思いこみ。 この思いこみから距離を取っていたのがカノウなのだが、彼女も映画のラストでやむにやまれず山下を攻撃する。暴力こそ、他者の否定のもっとも先鋭的な形である。アツコ(佐津川愛美)は山下を刃物で刺し、マヒル(恒松祐里)の妹はバットを持った何者かに襲われようとしている。 さらに別に三人、思いこみから距離を取っていた嬢がいる。いつも何事かノートに書き込んでいるチカ(行平あい佳)は、言葉で表現することで自己を解放しようとしていたのであろう。熟女のシホ(片岡礼子)は、これは私の想像だが、もはや自己の肯定も否定も超越してしまった感がある。一種の諦念である。 もっともユニークなのは、やはりマヒルである(彼女とカノウは比重がほぼ同じで、どちらもが主人公であると言っていい)。マヒルも「東京なんて燃えてしまえばいい」とうそぶくように、攻撃性を秘めてはいる。しかし、他の嬢と異なり、表面上はデリへルの仕事を肯定し、あくまで金を貯めて理想の生活を実現することが目的だとしている。そして、笑顔を絶やさず楽天的にふるまっている。 しかし、マヒルの笑顔が防御壁であることは誰にでもわかる。笑顔(明るさ)という壁を作って他者の攻撃を防ぎ、自己を守っているのである。問題は、守るべき自己があって壁を作ったのか、壁を作ることで後づけで自己が見出せたのか、というパラドックスであろう。少なくとも、壁を取っ払ってしまったらマヒルはマヒルでなくなるのではないか? ずっと、壁ありきで生きてきたのだから。 とはいえ、ラストでのマヒルの言葉は一個の救いであった。彼女はビルの屋上にのぼる。私もそうだったが、映画を見ていた多くの人が彼女は飛び降りるのだと考えたのではないか。しかし、彼女は「おなか、すいた」とつぶやいたのである。人生の拒絶はなかなかうまくいかないが、生そのものはこれからも受け入れるぞ、というとても希望に満ちた言葉である。 同様に、カノウの号泣も次へのステップ、生のリセットである。「お前とはそうならない」とハギオ(池田大)に軽くあしらわれ、自分はやはりタヌキであってウサギになれなかったという事実を突きつけられて泣くのだが、泣くエネルギーがあるなら、カノウはこれからも充分に生きていけるのである。 伊藤沙莉という女優を知ったのは昨年、テレビドラマの『これは経費で落ちません!』によってだった。主人公の多部未華子の濃い顔と甘い声に対し、普通の顔とドライな声が印象的だった。なかなか他にない個性だと思う。

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