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上映中

大コメ騒動 (2020)

監督
本木克英
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3.27 / 評価:200件

女性を主体にした民衆蜂起運動について

今回取り上げるのは、今年1月に公開された『大コメ騒動』。本木克英監督の作品レビューを書き込むのは「超高速!参勤交代」に続き2作目で、レビューを書いていない映画では「ゲゲゲの鬼太郎」(実写版)をテレビで観たことがある。「鬼太郎」では制服姿の高校生を演じた井上真央が、本作では3人の子供がいる主婦を演じているところに、年月の経過を感じる。
題名の「大」の漢字にわざわざ「だい」とフリガナが表示される。確かに「おおそうどう」よりも「だいそうどう」と読むほうが只ならぬ感が伝わってくる。本作が描くのは1918年(大正7年)に起こった米騒動で、皆さんも歴史の教科書に載っていたのを覚えているだろう。騒動の発端になったのは富山県で、映画も当県の漁師町に住む主婦たちを中心に展開する。

僕が本作の前にレビューを書いたのが「おもいで写眞」なので、偶然にも富山県を舞台にした映画が続くことになる。本木監督も富山県出身で、一度は生まれ故郷を舞台にした映画を作りたかったという。米騒動は富山県においては語るのがタブーとされていたことがある。僕の想像だが、この騒動で助かった人だけでなく損をした人、傷付いた人も多かったためではないか。
富山県出身の俳優といえば室井滋が有名だ。本作でも米騒動を起こす女性たちのリーダー格であるおばばを演じている。僕が立山・黒部アルペンルートを旅行してトロッコ列車に乗ったとき、室井さんが車内アナウンスを担当していて、愛郷心の強い人だと思ったものだ。本作のおばばは、かつて「鬼太郎」で室井さんが演じた砂かけ婆のイメージそのものであった。

主人公の松浦いと(井上)は、17歳で結婚して長男が10歳ほどと見受けられるので20代末から30歳にかけてか。新聞を一読して記事の趣旨を理解できるので、かなり頭の回転の早い人である。なぜかと言うと僕も新聞を購読しているが、連れ合いから「その記事、何が書いてあるの?」と聞かれても、記事の内容によっては即答できないことがあるからだ。
旦那の利夫(三浦貴大。出番は最初と最後だけ)は猟師で、魚が獲れない夏場は北海道に出稼ぎに行く。その間はいとが米俵を米問屋から海岸の船まで背負って運び、手間賃を得る「仲仕」という仕事で一家を支える。いとと一緒に働く女性たちの多くは読み書きができないようだ。この時代は選挙さえ行われておらず、女性の社会進出は不可能と言って良かった。

映画を観て、僕がいかに大正時代について無知か思い知った。米屋の店頭に「米一升三十三銭」といった貼り紙がある(この値段が高騰していく)が、33銭が現代でどの程度の価値なのか分からない。米価が高騰する理由の一つに「シベリア出兵」という言葉が出てくるが、無知な僕は日露戦争のことかと勘違いした。日露戦争は明治時代で、本作の時代よりかなり前である。
「シベリア出兵」とは革命で混乱したロシアに介入して利益を得ようとした戦争のことで、ハッキリ言って連戦連勝の日本は奢り高ぶっていたのだ。このような時代に虐げられた女性たちが「これでは生きて行けん!米よこせ!」と暴動を起こす。結果的に当時の寺内内閣を倒す結果を生むのだから、スケールは小さくてもフランス革命の日本版と言ってもいいだろう。

なぜフランス革命を連想したかと言うと、「ベルサイユのばら」でも似たような場面があるからだ。民衆が苦しんでいるのに王室が豪華なパーティーを開いたことを知った主婦たちが怒り狂い、暴徒と化してベルサイユ宮殿に殺到するという、原作で最も盛り上がる場面である。命が危うくなったマリー・アントワネットは・・・、本作とは関係ないからここで止めておこう。
私的評価は★4つ。フランス革命のように、もっと大規模な暴力や破壊を伴う騒動が描かれるのかと思っていた。しかし舞台は富山県の漁師町にとどまり、クライマックスは浜辺で米の積み出し阻止のため集団で実力行使する場面だ。これはこれで映画的興奮はあるものの、ちょっと肩透かしされた気分だった。取材に訪れた若い新聞記者の扱いが中途半端なのも気になる。

逆に良かったところは、抗議行動に参加する女性たちの団結力が必ずしも強くないという描写である。困窮したいとが友達の主婦に米を貸してくれと頼むが、余裕がないと断られる。しかしその家には余裕の米が蓄えられていたという場面が印象的だ。いと自身も、老獪な米問屋(左時枝)から安く米を買えることを条件に運動から手を引くように持ち掛けられる。
各々の立場や思惑の違いが明らかになるが、言いたいことを言い合った後で女性たちの団結力はかえって高まる。権力側は不満を持つ民衆同士の仲間割れを仕向け、自分たちの都合のいい政策を推し進めようとするが、民衆たちはその上を行っていた。なかなか現実はこう上手くは行かないだろうが、この場面はコメディ調で小気味よく描かれ、僕の好きなシーンである。

詳細評価

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