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レディ・マクベス
2020年10月23日公開

レディ・マクベス

LADY MACBETH

892020年10月23日公開

つとみ

4.0

ネタバレ愛とパワーの天秤について

原作のタイトルは「ムツェンクス群のマクベス夫人」だ。フローレンス・ピューが演じた主人公もその夫の名前もマクベスではない。 つまり原作のマクベス夫人とはシェイクスピアの「マクベス」に登場する夫人のことだ。 シェイクスピアの「マクベス」において最も恐ろしい人物はマクベス夫人である。その夫人を膨らませて作り上げたのが本作の主人公というわけだ。 殴り合う暴力とは違う、精神的な暴力とでも言おうか、加速していく凶気がひどく恐ろしく、へたなホラー映画(ホラーは苦手なので観ないが)よりもある意味怖いのではないだろうか。 主人公のプレッシャーに耐えられなくなった恋仲の使用人は罪の告白をする。 それを自分の愛に対する裏切りと捉えた主人公はメイドに偽証させる。 おそらく使用人を好いていたであろうメイドは、この恐ろしい主人公に仕えるよりも愛する人と滅ぶ道を選んだ。 一方で主人公は、愛のためだったはずの全ての行動をなすりつけ、今の地位にしがみつく。愛のためにどこまでもなど口だけで自分だけが可愛いのだ。 結果、夫や義父に強いられた「祈るだけの毎日」を自らの選択によってすることになる。 そうなるとここまでの殺人は一体何だったのかという話になる。 少なくとも突如として見知らぬ土地に連れてこられ、親もいない、主人公と境遇が似ていてしかも好意を寄せてくれた子どもの殺害に擁護できるところはない。 主人公が本当に欲したものは愛などではなく、自分に「祈ること」を強制したのと同じ「パワー」だったのだ。 自分にとってはただただ怖いホラーのようなスリラーで、新訳マクベスのようでもあり面白かった。 最後にどうでもいいが、振り返ってシェイクスピアの「マクベス」を考えてみると、妻の言葉で一応最後まで事を成せたマクベスは、善し悪しは別として器だけはまぁまぁだったのだなと思った。 とは言っても一介の使用人でしかない本作の男に本家のマクベスと同じものを求めるのは酷だろうが。

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