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踊らん哉

踊らん哉

SHALL WE DANCE?

108

dkw********

3.0

タップの響きは、アメリカ文化の独立宣言!

 この頃のハリウッドのミュージカルからは、独自の文化を築こうとする時代の高揚感が伝わってくる。特に、タップダンスへの過剰とも思える多用ぶりには、社交ダンスやオペラに代表されるヨーロッパ文化への対抗心が見て取れる。例えば、『トップ・ハット』に於けるオープニングの場面。ロンドンの静まり返ったホテルのラウンジをフレッド・アステアが高らかにタップを響かせて立ち去る。如何にも権威的性格の形式主義を蹴散らした象徴的な演出だった。本作品に於いてもクラシックバレエを対抗軸に、ミュージカルの多様性を誇示してみせる。かつてヨーロッパ各地から移民として渡って来た異国人が、各々のアイデンティティーを協調させる新しい共通理念として、ヨーロッパ的な権威主義からの開放を掲げた。映画も新天地で生き延びていく為には、ヨーロッパへの郷愁から自立への必要性があった。こうしてハリウッドは異文化を共存させる為の多様性を身に着けていった。日本であれば、この時点で主体性を放棄する事でしょう。現に、戦後アメリカ文化の流入によって古典芸能は見事に失墜してしまった。日本映画の斜陽化も同様、異文化の共存が如何に難しい事かが分る。その点、他民族・他宗教のアメリカ社会では多様性が必然だった為、ハリウッド映画には意外と民族の系統や宗教色がはっきりと出ている映画が多い。さて、この『踊らん哉』だが、皆が期待しているダンスシーンが中々出てこない。振り付けのレベルアップや、より高い完成度を求められ、撮影よりリハーサルに時間が割かれた結果なのだろうか。確かに、船上のステージでのシーンはピアノに乗ったり、かなり激しいダンスだった。ローラースケートを履いたダンスシーンも見た目以上にハードであったに違いない。ただ、出し惜しみをした割には、その苦労が報われていない。物語にも求心力が無く、何とか完成に漕ぎ着けたような印象が残る。噂によって作られていく人物像と、本人そっくりの人形を引っ掛けたアイデアは良いとして、この映画あたりからF・アステア&G・ロジャースの人気が低迷して行ったのも判るような気がする。

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