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カポネ
2021年2月26日公開

カポネ

CAPONE

R15+1042021年2月26日公開

つとみ

4.0

トム・ハーディの最高傑作では?

痴呆症を患った人の視点で描く疑似体験という意味で、アンソニー・ホプキンスがアカデミー主演男優賞を受賞した「ファーザー」と似たような作品だ。 彼らの見る真実か幻覚か、または錯覚か、虚と実の見分けがつかない、そんな悪夢の世界にはまり込む恐怖に似たものを描く。 「ファーザー」が4点あるのに対し本作が2点代なのは観ている層の違いかなと思う。これが面白くないなんて理解できてないにも程がある。ちょっとアレな感じのレビューも多いようだしね。 「ファーザー」と本作の一番の違いは主人公がアル・カポネという特殊な人物であるというところだ。 普通は目の前に見ず知らずの人が現れたら「お前は誰だ?」となる。 しかしカポネの場合は、思考がしっかりしていたときでさえ、名前も知らない見ず知らずの人々に囲まれて生きてきたため、本人が違和感を感じることがないのだ。 初めて見る男が親しげに話しかけてきても、初めて見る女がすり寄ってきても、それはカポネにとって日常だった。つまり、例えば自分の妻が分からなくなっていたとして、彼女が自分を介抱していてもカポネにとっては理解の範疇ということになってしまうわけだ。「お前は誰だ?」になりにくい。 家族も家族ではない者も、更には本当に名前もわからない者も屋敷に出入りしていて、痴呆症によってわけが分からなくなっていることさえ理解出来ていない状態なのが面白い。 それは観ている私たちにも仕組まれている。見せられているものがカポネの視点である以上、真実か幻覚か見定められないのだ。 目立ったシーンの一つとして、バーボンを「ダチに飲ませる」と言った瞬間の衝撃はなかなかだったね。そこからはもう転げ落ちるように面白くなっていく。 ハッキリしない意識の中でカポネが気にかけたものは、手にし隠した1000万ドルではなく、これまでに失ったものだった。ネタバレになってしまうのでそれが何かは書けないが、2つある。 生者はあるかないか定かではない1000万ドルを気にかけ、死期が近く意識がハッキリしないカポネは手にできなかったものを気にかける。 ここにきてまだ欲する強欲さを表すのか、失ったことへの後悔を表すのか、または近親者への愛を表すのか。 もしかしたら、ただ単に何も得られなかった、何も残らなかった男を描いたのか。少なくとも、人参を咥え、オムツにガウンで金ピカのトミーガンを乱射する姿には悲しみしかない。

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