あらすじ・解説
進学校に通う高校3年生の少女チェン・ニェンは、大学進学のための全国統一入学試験を控え重苦しい日々を過ごしていた。ある日、一人の同級生が陰湿ないじめを苦に自殺し、彼女が新たないじめの標的となる。いじめっ子たちの嫌がらせが激しくなっていく中、チェン・ニェンは下校途中に集団暴行を受けている少年・シャオベイと出会う。共に孤独を抱えた彼らは次第に心を通わせていく。
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予告編・動画
作品レビュー(60件)
- アニカ・ナットクラッカー
5.0点
今回取り上げるのは2019年の香港映画『少年の君』。日本での初上映は2020年の大阪アジアン映画祭で、昨年7月に一般公開された。中国では250億円近くの興行収入を稼いだメガヒット作で、昨年のキネマ旬報ベストテンでは外国映画の10位に選ばれた。アカデミー賞では「アイダよ、何処へ?」などと並んで国際長編映画賞にノミネートされている。 非常に観応えのある映画で私的評価は★5つだ。高校3年の主人公チェン(チョウ・ドンユイ)は江口のりこを若くしたような地味顔で、恋人となる少年チャオベイ(イー・ヤンチェンシー)はフィギュアスケートの高橋大輔に似ている。そしてチェンを苛める主犯ウェイ(チョウ・イエ)は華やかな美少女で、日本映画だとチェンとウェイを演じる女優は逆になるだろう。 中国内陸部にある巨大都市・重慶が舞台で、僕は3回ほど中国を旅行したが重慶には行っていない。初めて行った海外旅行は上海で、そこのガイドさんから「中国は三大溶鉱炉と言われる暑い町が3つある。南京・武漢・重慶だ」というのを聞き、そこで初めて重慶の名前を知った。映像で初めて観る重慶は、高層ビルの谷間に薄暗い坂の町が広がる怖い雰囲気があった。 チャオベイは身寄りのない浮浪児で、立体交差の下に建てた小屋に住んでいる。そこでチェンがシャワーを浴びる場面があるが、近くの水道を勝手に引いているのだろう。学校にも家庭にも居場所のないチェンは最悪の状況でチャオベイと惹かれ合い同棲する。学校での苛めの悪夢を忘れさせてくれる場面だが、実際には暑さと騒音と大気汚染で堪らないだろうと思う。 僕は東京都板橋区に住んでいた事があり、本作を観て思い出したのが板橋区の経験なのだ。都営三田線の板橋本町駅付近は中仙道・環状7号線・首都高5号線という3本の幹線道路が交差し、かつては日本一の大気汚染の場所と言われていた。夜間にこの近くを歩くと車のライトが高速の橋桁に反射して、未知の怪物が跋扈する深海にいるような気分になったものだ。 立体交差の他に印象的なのが長い階段で、ここでウェイがチェンといざこざの末に転落して死んでしまう場面は、周囲の陰鬱な雰囲気と相まって、地獄に堕ちるような怖さがあった。チェンが通う高校の、窓に鉄格子の嵌った牢獄のような雰囲気も忘れられない。校庭に集まって「合格するぞ!」と気勢を上げる場面を見ると、東アジアの受験熱の凄まじさを実感する。 監視カメラによる映像が多用される場面はアニメ「バケモノの子」を連想させ、市民を監視する中国社会の息苦しさを表している。チャオベイは親の愛情を知らぬ孤独な少年で、中古スマホを売って日銭を稼ぐ。いろんな部品を組み合わせてスマホの修理を得意とするのが現代っ子らしい。バイクに乗る場面があるが、おそらく二輪の運転免許を持っていないと思われる。 クラスメイトのフーが苛めを苦に高校で飛び降り自殺するのが、物語の立ち上がるきっかけである。倒れたフーの周りを生徒たちが取り囲み、スマホで撮影する場面。死んでまで多数のカメラに晒されるフーだけでなく、無表情でスマホを向ける生徒たちもまた可哀想である。チェンはフーの遺体に上着をかけてやり、それが彼女に対する新たな苛めを誘発してしまう。 中国らしいのが、チェンやチャオベイを尋問する若い刑事など体制側はチェンたちに同情的で、まっすぐな正義感を持つ人物として描かれている。「薬の神じゃない!」と同様で、中国映画では警察を悪役として描く事はできないのだろう。またラストでは政府が苛め問題をいかに重要視して取り組んでいるかが紹介され、この辺はちょっと醒めた気持ちになった。 ただし刑事の「苛めの問題は巧妙化しており、立件するのが難しくなっている」という言葉には同意する。チェンは母親と二人暮らしで、母親は金儲けのため偽の化粧品販売に手を染める。その事実がスマホで拡散されて高校の間に広まり、チェンは追い詰められる。母親の販売した化粧品で被害に遭った人もいるわけで、チェンが一方的な被害者とも言い切れないのだ。 チェンが学校で孤立無援かというとそうではなく、同級生の男の子は「あと2か月で試験が終わる。お前はフーのようにはなるな」と励まし、チェンを苛める主犯ウェイの取り巻きの中には、苛めに積極的でない(逃げたチェンの場所を知りながら見逃す)子もいて、バランスを取っている。哀れな最期を遂げるウェイも犯行の発覚を恐れる小心者の一面を垣間見せる。 表題に書いたように、ディストピア(反理想郷)のような重慶の街並みや、監獄のような学校の描写、当局が監視カメラで市民を見張る社会など、映像で現在の中国を批判する場面が多いのが目を惹いた。かつて中国は共産主義として平等な社会を目指した筈だが真逆の格差社会となり、かえって日本が「最も成功した社会主義国家」などと言われるのが皮肉である。
- ひーろーかむおん
4.0点
加齢のためか、近頃、書くのが滅法界億劫になってきたので、要点のみを記す。 あらすじは、横着をして、WOWOWの解説の次のとおり。 『母子家庭に育ち、母親が日夜働いて懸命に学費を稼ぐ中、進学校に通う高校3年生のチェン・ニェン(チョウ・ドンユイ)。 全国統一の大学入試が近づき、学内の空気もいよいよ殺伐とする中、クラスメイトがいじめを苦に自殺し、チェン・ニェンが次のいじめの標的とされる事態に。 そんな折、街中で集団リンチに遭っていた不良少年のシャオベイをチェン・ニェンが偶然助けたことから、今度はシャオベイがひそかに彼女のボディーガードを務めるようになる。』 チェン・ニェンをどこかで見たことがあると思ったら、ボロ泣きさせられた『サンザシの樹の下で(2010)』の少女だった。 撮影時27歳ぐらいだろうが、女子高生役に全く違和感がない。 そんな彼女が虐めの対象にされてしまうのだが、ひょんなことから知り合ったチンピラのシャオベイにボディーガード役を務めてもらうようになるのだった。 ニェンの通学途上、付かず離れずの絶妙な距離感を保ちながらのガードぶりが心地イイ。 そのことを知った虐め側の少女が巧妙な罠を仕掛けるのだ。 この少女がなかなかの美少女なので、彼女の邪悪さが一段と際立つのだ。 で、シャオベイのボディーガードがお留守になった時、ニェンは凄絶な虐めに遭い、髪の毛をザンバラにされてしまうのだった。 その惨状を目の当たりにしたシャオベイは、彼女のザンバラ髪をバリカンで丸刈りにし、自らも坊主頭にするのだった。 こんな悲惨な目に遭ってもニェンの大学進学の熱意は冷めやらず、「大学に行って、出来るなら、世界を守りたい」と呟く。 すると、シャオベイは次のように言う。 「君は世界を守れ。俺は君を守る。」 無垢な魂と粗野な魂がピュアな光に包まれる瞬間で、涙が零れ落ちてしまう。 以降、不可抗力による殺人事件が起きてしまうのだが、シャオペイの健気で一途な献身愛がいじらしく、またまた涙を誘われる。 終幕も秀逸だ。 5年だったかの歳月が流れ、シャオペイの未だに「君は世界を守れ。俺は君を守る。」の一途な愛に愛おしさが込み上げてくる。 大好きな作品・東野圭吾『容疑者Xの献身(2008)』のパクリとかの批判もされているようだが、そんなことは微塵も感じさせない秀作で、非常に見応えありの4.4点といったところかな。 (メモ パスワードを忘れてトラブってしまったので、新たに開設した。 旧(fg9)レビュー数:4100件、新レビュー数251件目)
- nnn********
5.0点
中国映画ほとんど見ませんが、凄く良かったです。 辛いシーンが多いのですか目が離せなくなった。メッセージ性の強い映画ですね。 思わず主演の若いお二人を検索してしまいましたよ。演技の熱量がハンパなかった。 中国にもこういう映画もあるんだな。 そりゃそうだよなー。 ちょっと中国映画に対する見方が変わった。
- par********
5.0点
ネタバレ最後の面会のシーン
このレビューにはネタバレが含まれています。 - sdh********
5.0点
ホットロードやエバ等のオマージュがあるが、急に無音にしたり、表現技術もかなり高い。近来まれに見る傑作。 50すぎのオヤジが見ても胸がキュンキュンしました。
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