レビュー一覧に戻る
茜色に焼かれる
2021年5月21日公開

茜色に焼かれる

R15+1442021年5月21日公開

Dr.Hawk

3.0

ネタバレルールには権力の使い方が記されている

2021.5.25 TOHOシネマズ二条 2021年の日本映画(144分、R15+) コロナ禍で理不尽な仕打ちに晒される母子を描いたヒューマンドラマ 監督&脚本は石井裕也 物語は主人公・田中良子(尾野真千子)の息子・純平(和田庵)のモノローグと「時給○○円」などのテロップが挿入される形で描かれていく 時はコロナ禍で経済が疲弊する中、良子の夫・陽一(オダギリジョー)は高齢者の運転ミスによる事故によって他界してしまう 陽一は売れないミュージシャンで、経済的な価値を保険会社に査定されて額が提示されるものの、良子は加害者親族の謝罪がないという理由で受け取りを拒否していた 良子には13歳の一人息子・純平がいて、2人は公団住宅で質素な生活をしている 陽一の前妻の娘の養育費を良子が払い、義父の施設入所費用も用意する 元はカフェを経営していたが、コロナ禍により閉店を余儀なくされ、今では昼はホームセンター、夜は風俗嬢という生活を繰り返していた 物語はピンサロ店の同僚・ケイ(片山友希)と飲みに行った際に、それまで隠していた胸のうちを晒すところから動き出す また、高校時代の同窓生・熊木(大塚ヒロタ)との再会に浮き足立ち、そこに縁故採用の余波でホームセンターからの解雇通告が来たりと波乱万丈を地で行くような展開が待っていた この映画は144分と長く、そのほとんどが「理不尽な仕打ちを受ける女性2人と純平」を観るという流れになっていて、不当解雇、女性蔑視、いじめ問題などに加えて、冒頭の上級無罪的な社会問題も内包してくる ぶっちゃけ重すぎるのと、1人の女性がここまで理不尽さに晒されまくるだろうかというリアリティの無さも感じてくる ケイに至っては1型糖尿病の娘を8歳児に父がレイプしているとか、ヒモ男のDVやら風俗で客に罵倒されるなどと底辺中の底辺でありながら、「良子さんって大変すね」と言わせたりもする この2人の女性に共感する人がいるかと言われたら、この映画を観る層にはいないと感じてしまうだろう この映画では「生きる意味」とか哲学的な側面を匂わせるものの、結局は感情論で不幸になる人間を描いていく 自分の境遇を甘んじて受け入れる一方で、他人(息子も含む)の仕打ちには感情をあらわにする ケイのセリフに「自分のことでは怒れない」という趣旨のセリフがあるが、自分の感情をコントロールしつつも、他人が絡んでくるとコントロールできないという弱さを同居させている そして、ルールという言葉をダブルスタンダードで捉えていて、押し付けられたルールを守るという側面がありながら、「自分で嘘をつくのに」息子には「嘘をつくな」と言ったりもする この構図は「ルール」を神聖化する一方で蔑ろにしている行為であり、事故加害者のようにルールの真髄を理解してはいない ルールは弱者を守るためでもあり、強者を守るためにも存在するのだが、その利用価値に気づいていない弱者は強者に食い物にされているだけだと気付けていない このあたりの登場人物の知性の無さが共感を削ぐように思えた 妻がいて、子供がいる男性と結婚する良子 夫が払うべき養育費や義父の施設費など「恩義があるから」という理由だけで続けている これらの行動は表層的には支持されようが、自分の生活であるとか息子の将来というものを全く考えていない 息子がいじめられている原因に考えも及ばず、自分自身が息子とのルールを破っているのにそれを気にも止めない このダブルスタンダードを利用する人間は強いが、利用している自覚のないままに埋もれていると泥沼にハマるだけにように感じた 総じて、ほとんどの部分で自己責任的な側面が否めないので、感情と方法論に思慮が及ばない人物として突き放してしまうように感じたのである いずれにせよ、こう言った感情をコントロールしているつもりで感情に支配されている人というのは映画でよく登場するのだが、実際のところここまで無知な人がどれだけいるのかというのは疑問である 映画自体も「生きる理由を模索する」というテーマがありながら、最終的には「生きる意味がなくなったんじゃないの」と中村に言わせるミスリードで締めていく この映画におけるケイは「生きる意味を失った」のではなく、「死ぬ意味を見つけた」のだと思う そして、「人の死の意味」というのは後付けで残された人たちの解釈でしかなく、自分で選ばない死には意味がないのではないだろうか かなりの観念論ではありますが、この映画を観て漠然とそんなことを考えている自分がいましたね そう言った意味では鑑賞する価値があるのかもしれません でも、はっきり言って「長い」と思いますよ

閲覧数1,170