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彼女が好きなものは
2021年12月3日公開

彼女が好きなものは

PG121212021年12月3日公開

mif********

4.0

ネタバレシンプルに自分の浅はかさを打ちのめしてくれる秀作

いや~。思いのほか、良かった。 LGBTQについて、一歩踏み込んだ作品で、 同性を好きになるとか、人と違うとか、 人に知られるという恐怖などテーマから、 その先の苦悩にも、向き合い、描かれている事に、正直、驚いた。  主人公の繊細な心の動きが、痛々しく、 自分を守るためではなく、人を守るために疲弊していく様が、見事だった。 こういった作品をけっこう観ていて、 LGBTQについて少しは理解のある方だと自負していたとしても、 この作品は、ちょっと、自分の見え方をひっくり返すような感覚だった。 それは、分かったつもりだった自分を恥ずかしく感じるレベルだし、 理解なんて到底できないのだと、その難しさを、改めて思い知った次第だ。 主人公の安藤は、ゲイを隠して生きてきた高校生だ。 ひょんな事から、同級生の三浦さんが、BL好きだと知ってしまう。 三浦さんがBL好きだという事に、理解を示そうとする安藤。 そこで、こんな台詞を言うんですね・・・。 「物理の授業で、ただし摩擦はゼロとするってあるでしょ? 空気抵抗は無視できるものとするとか。 複雑なことを無視して、世界を簡単にしたくないんだ」  この台詞は、安藤がどれほどに、摩擦を感じながら生きているかって事の、 表れだと思う。  小さな摩擦に、傷付いてきたからこそ、 人に対しては、無視をしたくないと思う安藤の繊細さと優しさの言葉だと思う。  そんな安藤を好きになった三浦さん。 安藤は、彼女の気持ちを受け入れ、自分も普通に女性と付き合い、 生きていけるのではないかと、願うんですね。 けれど、やっぱり、安藤は、 ゲイなんだと思い知らされる。 そして、その事を、三浦さんに打ち明けます。 その事で、安藤がゲイだという事がクラスに広がってしまい、アウティングされてしまう。  クラスメイトの差別にさらされた安藤は、教室の窓から飛び降りた。   怪我で済んだ安藤は、母親に、涙ながらに訴える。 普通の結婚も出来ない。孫も見せることが出来ない。 孤独死する自分が見えてしまう・・・・ そんな安藤に、三浦は、優しく寄り添う。 「安藤くんの事は、理解したい。 理解出来なくても、想像したい。 安藤くんのこと他人事にしたくない」 理解するという事は、本当に難しくて、 人を完全に理解する事は、無理に等しい。  だからこそ、寄り添い、想像する。 三浦さんのこの言葉で、安藤はどれほど、安堵した事だろう。 そして、彼女は、檀上で、 こうクラスメイトに語り掛ける。 「彼は苦しんでいました。 普通に生まれたかった 普通の幸せが欲しかった だから、私と付き合ったと彼は言いました。 彼の周りには、見えない壁があります 彼が作ったその壁は 自分を守るためのものじゃなくて 私たちを守るためのものなんです 私たちが困惑しないように 自分をなくして 摩擦をゼロにして 世界を簡単にして 彼は、自分が嫌いで、私たちが好きなんです でも、そんな彼を私は大好きで、 彼という人が大好きなんです。 だから、生きてて本当にうれしい」  正直、この檀上のシーンは、 「ああ・・・まだ感動系ね・・」と、一瞬ガッカリしたんですね。 というのも、こういう檀上系で感動させますって展開が、 観ていて恥ずかしくなる事が多くて・・・・ でも、この作品は、その言葉に心の底から感動した・・・・ ・・・というか、理解した・・というか、 世界がひっくり返ったというか。  壁を作ったのは、自分の秘密を守るためではなく、 人を守るためだという見方に、もう唸るしかなかった。  自分を守る事であり、人を守る事であり。 そういう2重の意味がある事を見えていなかった事を、凄く、 恥ずかしく思った。    LGBTQに対して昔よりは、理解が広がっているとはいえ、 それだけでは解決しない根本の問題にも、向き合っている。 「結婚」や「子供」そして、その先の事への不安や苦悩。  正直ですね。それも、人生の選択だと思っていたんですね。  ゲイなんだから仕方ない・・とか、そんな風に思っていたんです。 けれど、それって、本人たちが選択したワケではなくて。 ならば、そういったものを願うのも当然だし、 そういう選択が出来る世界でないといけないと思う。 もっと同性婚が広がり、色んな手段で子供を持つ事が出来る。 そんな選択が出来る世界にならないといけないと思った。 LGBTQの方々が、同性婚を求めてデモをしたりする映像を、 さらっと観てきた自分。  でも、そのデモの向こうには、 生きていく上でのどうしようもない不安と、 そういった不安に対処するための選択が、異性婚と同じように、 同性婚でも示されるべきという訴えなのだ。 最後のシーンで、安藤は言う。 「今日、改めて気付いたんだよね。 もし、この世界に摩擦がなかったら、 僕らは、一歩も進めないって」 人に対しては、小さな摩擦にも向き合い、 自分の摩擦に対しては、気付かないフリをしてきた。  複雑なことを無視して、生きていくのではなく、複雑なことにも向き合っていく。  そんな決意は、私たちにも求められている。 ・・・という事で、シンプルに、観ている人間を打ちのめしてくれる秀作です。 主役の神尾くんも良いですが・・・ まぁ、この作品は、とにかく、、 山田杏奈さんが、すこぶる、いい!!  あの檀上の、あのシーンも、 感動でかっさらったのは、本当に、凄いと思う。 台詞も良かったけど、やっぱり、その演技力だよね・・・  いや~・・・この女優さん、いいですね。  恥ずかしいついでに言いますと・・・・ LGBTQ作品を観てきて、まぁ、理解した気分でいて。 そうではなかったという事は書きましたが、 常々、私の周りには、ゲイの人とかいないな~・・・とか、 思っていたワケですよ。  いたら、私は、いい理解者になれるのに~とか勘違いしていたんだけどね。 彼の周りには、見えない壁があります 彼が作ったその壁は 自分を守るためのものじゃなくて 私たちを守るためのものなんです 私たちが困惑しないように 自分をなくして 摩擦をゼロにして 世界を簡単にして あああ・・・そうか。 私の周りにもきっといて、 そっと息を殺して、自分を殺して生きているのかも知れない。 そんな風に思って、また、愕然としたんですけど。   見えていないから、それが全てではなくて。 それはLGBTQだけではなくて、 見えているものが、全てではない。 ・・・・そう考えると、言葉一つ一つ、動作一つ一つ、 視線一つ一つ、優しくありたいな・・・・ いや・・・・・ ほんと、ちょっと、色々と自分が恥ずかしくなりましたね・・・。 まぁ・・・あとね。 途中「ホモ」って言葉が出てくるんだけどね。 それが、凄く違和感ではありましたね。  原作作者が差別用語として非常に重要とした言葉であるようなんだけど。 今では死語に近いような気がして。 からかう場面ではあるだろうけど、 安藤が自分で「ホモなんだ」と告白するシーンは、 やっぱり「ゲイ」なんじゃないかな・・・と。 それが気になった点ではあります。

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