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上映中

草の響き (2021)

監督
斎藤久志
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3.29 / 評価:41件

言葉の裏を読む和雄、行動の裏を読む純子

  • dr.hawk さん
  • 2021年10月14日 20時41分
  • 閲覧数 163
  • 役立ち度 1
    • 総合評価
    • ★★★★★

2021.10.14 京都みなみ会館


2021年の日本映画(116分、G)
佐藤泰志原作の書籍『きみの鳥はうたえる』に所収されている短編「草の響き」の実写化作品
心の病に苦しむ元会社員が地元に戻って療養を始めるヒューマンドラマ
監督は斎藤久志
脚本は加瀬仁美


物語は函館の街並みをキックボードにて走る高校生・小泉彰(Kaya)の様子が描かれて始まる

そして物語はメンタルクリニックにて診察を受ける、東京から地元に戻ってきた元会社員・工藤和雄(東出昌大)が描かれていく

いくつかの質問を投げかける精神科医の宇野正子(室井滋)

「仕事の悩みはないか?」と訊かれて言葉を濁す和雄、診断名は「自律神経失調症」だった

投薬と運動療法を言い渡された和雄を待っていたのは、地元の親友・佐久間研二(大東俊介)で、彼は地元の高校で英語教師を続けていた

研二から連絡を受けた和雄の妻・純子(奈緒)も合流した


その頃、地元の高校では転入してきた彰はバスケ部に所属していた

地元の男なら一度は挑戦するという「立待岬からのダイブ」の話をチームメイトの鈴木修太(山﨑竜太郎)から聞かされた彰は二つ返事で「いいよ」と言う

それから彰は市民プールに繰り出して泳ぎの練習を始めた

その様子を眺めていた高田弘斗(林裕太)は彼に声を掛け、そこから奇妙な友情が生まれていく

ボードを教えることと泳ぎを教えることを交換条件に、緑の島に大木を運び込む、それを障害物に見立ててボードの練習を始めるのだった


物語は和雄の日常と彰たちの日常を交互に描き、それが群像劇のような様相でほとんど交わらずに進んでいく

きっかけは和雄のジョギングに気づいた彰たちが、彼を追いかけるように走ってついていくことだがそれ以上の関わりは持たれない

そして、ある日突然、彰の姿が消えてしまう

一人、和雄の後を追いかけてきた弘斗に聞いても明確な答えは返って来ず、後日「死んだ」と聞かされるのである


物語の主題は「心の言語化」であるものの、その言葉の意味の共有の難しさを描いている

「まとも」に見える人たちが放つ「まともに見える言葉」に対して疑問を持つ和雄であるとか、「父の言葉の受け止め方を否定的に取る」様子などが描かれていく

それは「言葉の裏側にある発信者の真意」と「受信者が理解するもの」との乖離が広いことを意味している

医師が放つ「お大事に」は単なる挨拶のようなものだが、和雄にとっては「今の状況を表す医師の言葉」として捉えられ、その裏側を読み取ろうとする

「お大事に」の意味を理解できている純子はそれを重要視しないが、和雄は深刻に考えてしまうのである

だが、それは裏を返せば、それだけ無自覚に言葉を発している瞬間であるとも言え、人が放つ言葉の難しさと言うものを端的に描いている

深刻に考える人は「診察の延長線上で示される医師の言葉」として捉え、治療内容で感覚がズレている埋め合わせもほとんど行われない

このあたりは作者の実体験のようにも思え、病院勤務の私としては「軽い挨拶」が流れの中にあっても、和雄の心の流れの中にないことが描かれていると言える


和雄は眠れないから薬を飲むと言う行動に出て、そこに深い意味を考えていない

だが、その行動の裏側を読んでしまう純子は心ない言葉を選んでしまう

和雄が言葉の裏を読むように、純子は行動の裏側を読み、そこに相入れぬ絶壁が存在する

それゆえに会話が交わらないままエンディングへと向かってしまうのである


いずれにせよ、ラストシーンは爽快な和雄の笑顔で終わるのだが、このシーンの前の和雄は「ようやく自分の言動が相手にどう伝わっていたか」を電話越しに伝えようとしていた

裸足で柵を越えて走り出す和雄がどこへ向かったのかは描かれないが、彼は初めて自分の体の一部を大地に沿わせた瞬間でもあったと思う

そこに感じた温もりと、彰が感じた冷たさの先にあったものの違いは明確で、交わらなくても必要な言葉の駆け引きというものが、そこあるのではないだろうか

病院で二人で話すシーンだけがアップの映像になるのだが、この距離感というものが観客と映画の距離感でもあって、その近すぎることが感情の衝突につながっている演出であると感じた

そう言った意味において、とても繊細な映画でもあるので、心が弱ったことがある人ならばその演出の妙に心を震わせるのではないだろうか

私も一時期「自律神経失調症」に悩まされた時期を経たことがあるので、言語化できない感情であるとか、共有されないもどかしさというものを痛感してことがある

それゆえに、感覚的に感じられるものがあって、とても良い映画だと感じました

詳細評価

物語
配役
演出
映像
音楽

イメージワード

  • 悲しい
  • 知的
  • 切ない
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