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ONODA 一万夜を越えて
2021年10月8日公開

ONODA 一万夜を越えて

ONODA/ONODA, 10 000 NUITS DANS LA JUNGLE/ONODA: 10,000 NIGHTS IN THE JUNGLE

1742021年10月8日公開

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4.0

小野田さんの孫世代の感想を…

劇場は、小野田さんの子供世代に埋め尽くされていた。高齢者注目の作品だと客席の様子でわかる。 数ヶ月前に、この状況の劇場だったら入場を躊躇するくらい密。 コロナの感染者数が極端に減り、高齢者が気軽に劇場に足を運べる状況になった事は素晴らしい。 だが、映画のテーマはお気軽感ゼロ。戦後、敗戦を知らずに何十年もフィリピンの山林に潜伏していた日本兵・小野田さんの物語だ。 僕の卒業アルバムには、僕の生まれた年から卒業までに起こった年表が刻まれていた。小野田さんの名前もそこに登場する。僕の世代がリアルに感じ取れる第二次世界大戦の数少ない記録。お気軽なんかある筈もない。 同時に、祖父が経験したフィリピンの戦場を知る人の物語でもある。祖父が奪われた青年の時間がそこにある。 生還した祖父がいなければ、僕はこの世に生を受けていない。人生の別れ道というか、血脈の別れ道を含有した森に生きた人…。生き残った人、命を失った者 人、そして潜伏し続けた人。 史実を元に着想を得た作品と言う…。パンフレットは売っていなかった。小野田さんの人生を知るには、もっと色んな文献や参考資料が必要で、僕が語るには、純粋に映画から得た感想だけになる。又、映画の情報だけが頼りの知識しかない。 共に劇場の時間を過ごした、小野田さんの子供世代とは情報量も感じた事も異なると思う。 小野田さんは、中野学校で特殊訓練を受けていたと言う。その訓練は、捕虜になるなら自決を促されていた風潮と逆行する、何がなんでも生き抜いて徹底抗戦するスキルだった。 なるほど、戦後にずっと潜伏していた理由に合点がいく。 一つの信念と任務を全うする精神性が生んだ出来事なのか…。 この物語を悲劇と位置づけし難いと感じた部分がある。僕の人生の価値と小野田さんの人生の価値では、比較するにはおこがましいくらいにペラペラに生きてきた僕だ。信念と与えられた目的の遂行にかけた人生を、僕みたいな男が簡単に悲劇と位置づけ出来ないと感じる。 ただ、状況として思うのは、人に教えを施す側の罪深さだ。 世界の歴史には、自ら手を汚さずに、下の者を洗脳するかのような教えで不幸をばら撒いた為政者は沢山いる。 小野田さんのパターンと同じだとは言えなくとも、教えに従い人生を狂わせた者は世界中に数え切れないほどいる。 この任務を全うすれば天国に行ける。そう信じて他人を巻き込む事案は今もある。彼らは教えを全うしたわけで、名誉すら感じたかもしれない。 ある意味、信じる心の持ち主達。 信じ過ぎる正義の暴走に、正義を疑う余地は無い。疑いは罪だとすれば尚のこと。 自決を選ばせる風潮や教えも恐ろしいが、小野田さんの与えられた任務も恐ろしい。任務を与える者にも上の組織や人間がいる。それぞれが信念の元に止まらないし、止まる事を許されない。そして、末端の犠牲は激しい。 そんな中、無事に生還出来た祖父を誇りに思う。また、小野田さんのような人々にも感謝したい。この国を守る気概を、人生の犠牲で実行された結果だと思うからだ。 生き残り戦後復興に尽力された国民の方々全てに感謝する。 その想いを胸にクライマックス。小野田さんの為だけにフィリピンの森に流れる玉音放送…。 隣の席の高齢者に、一瞬漏らした僕の嗚咽が聞こえたかもしれない。

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