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オペラハット (1936)

MR. DEEDS GOES TO TOWN

監督
フランク・キャプラ
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3.82 / 評価:45件

フリーターだった私、米国の良心に出会う

  • 真木森 さん
  • 2012年2月15日 21時27分
  • 閲覧数 600
  • 役立ち度 7
    • 総合評価
    • ★★★★★

『素晴らしき哉、フランク・キャプラ』井上篤夫(集英社新書)が出版されています。実は今回が日本初のF.キャプラ評伝出版なんだそうですね。十数年前、あれだけ深い共感を持って鑑賞したキャプラ作品群ですがずっと見返してなかったなあ。何か戦後急激にキャプラ作品が忘れられてしまったのと似ているかも。「そうか、見直してみるか…」
初めて見たキャプラ作品が本作でした。今は廃館になった札幌ポーラスターで「メモリアルシネマ」の一本、ルビッチの『ニノチカ』と併映でやっていて、「伝説の女優、グレタ・ガルボはどういう人だったんだろう」という興味から見に行ったら、ノーマークのこっちの映画が抜群に面白い! 近寄りがたい雰囲気のガルボよりも普通の女性の温もりを感じさせるジーン・アーサーの方に心ときめき、『真昼の決闘』や『ヴェラクルズ』ではボサっと突っ立っているイメージのゲーリー・クーパーが名演で、上手いし格好良い(比較対象の映画がキャリア後半の作品だったのがそれまでの悪印象の原因でしたね)。そして真っ直ぐストレートな民主主義賛歌、拝金主義批判、ハッピーエンド。米国の良心を活写した監督だったという評に違わない胸のすく物語。展開はスピーディーで歯切れも良く、何よりも単純明快で陽性な映画です。「なるほど、オールドハリウッドの底力って本当に凄い。今この時代に持ってきても全く遜色ないし、なにより素晴らしいメッセージがある。」実に感心したのです。それで調べてみたら監督はアカデミー賞の常連で、『或る夜の出来事』は初めてアカデミー賞の主要五部門を独占、そして『素晴らしき哉、人生!』はクリスマスに多くの人が見る国民的映画であるとか、間違いなく映画史上の人であることを認識したのです。予備知識なしに見た日本の若造を感嘆させたのは伊達ではなかったのです。
 それほど感銘を受けた理由が別にあります。その頃の私はバブル経済の余波で就職した投資信託関係の会社を辞め、バーンアウトしてフリーター生活の底辺にいました。そんな時に映画は一番の励ましだったし、キャプラの前向きな映画は心に染みました。そして善良で正直であることが何より力であり、どんなに世相が悪く世間が厳しくても、決して冷たくはなくてどこかに救いの手は伸びているのだ、という希望を受け取ったのです。そう、完全に恐慌で土地を失った農民の目線ですね。そして本当に金が無く、タイ米をもらって食いつないでいたくらいでしたが、本当に必要としていたのは金ではなく、共に行動して気持ちを共有することの出来る女性でした。そう、一緒にグラント将軍の墓に行ったり“スワニー川”のコラボが出来るような…。
 キャプラ監督がシチリア移民の子で苦労の果てに映画監督になったという事を知ったのは少し後。外にルーツがある彼には米国の美点というものがよく分かっていたんでしょうね。社会的テーマを扱ったメッセージ色は脚本家R.リスキンの功績が大だということですが、それと同時にやっぱりキャプラは群衆描写が上手かったと思います。本編で行けば職を求めてやってきた人々がサンドイッチを食べるディーズを恨めしげに見つめるあれです(その後昼食をもらえると知ってパッと皆が喜ぶ見事な転換はもっと今の映像作家が真似した方がよい手練れ演出)。ヒーロー・ヒロインも浮世離れしたセレブでもなければ「狂乱の20年代」的な虚飾人でもない(本作で言えばど腐れ弁護士シダーやスノッヴ詩人連中)。方や田舎詩人で方や女性記者(この女性記者というのが30年代的で、タイピストや秘書という形で女性の社会進出が普遍化したのがこの時代なのです)。夢物語でない、現実味のあるロマンティックな恋愛ストーリー。今日我々が後付で見た印象以上にキャプラタッチはハリウッドを規定しているようです。
 今冷静に見てみれば穴も多いですね。特に屋敷のホールで共鳴を試し合うシーンは良くできているだけに「あれ、何も回収しないの」です。てっきり一番最後に屋敷でみんなが“スワニー川”を合奏して大団円だと思いましたよ(推測するに、ハリー・コーンに途中カットされたと思しき音楽会の客を追い返すシーンの伏線だったのかも)。ディーズ氏もホーリー・イディオットと言うよりは偏屈者で、やや共感呼ばないキャラだし、ギャグも玉石混淆でヤボったいものも目に付きます。でも良いんです。その後私はディーズ氏なみの愚直さで精進して教師に採用され、いまだに年間200を超える映画を鑑賞して心の糧を得ています。後は得てないのは理想の彼女だけ。想像の彼女が現実になるように、と愚直に願い続けてもう20年近く。キャプラタッチで私にもささやかかつ理想的な出会いがありますように。そして、この閉塞感が増している世界に、ささやかな善意と援助の輪が広がりますように。素晴らしき哉、F.キャプラ!

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