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破戒
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破戒

1192022年7月8日公開

伊佐山部長

5.0

ネタバレ現時点における、日本最高の映画

「過去の古典及び名作映画は脇に置いといて」の話なのだが、ここ数年以内に制作された日本映画の中で、最高の映画なのではなかろうか。 「どうして、そんな事が分かる?ここ数年以内に制作された日本映画を、全部チェックした訳じゃないだろう」と言う反論には、こうお答えしよう。 「こんなに緊張感にあふれた映画、他にあったか?現実に存在する社会矛盾に正面衝突した映画、他にあったか?予定調和で逃げなかった映画、他にあったか?」 慌てて付け加えておくが、ここに書かれている私の意見は「ドキュメンタリー映画を除く」である。 何だか前置きばっかりで、話が前に進まないが、誤解を恐れずに言えば、本作はヒロイック・ファンタジーまたは中世騎士物語のような様式美を感じさせる映画だと思った。 ただし、ヒーローが予定調和的に悪に勝つパターンではない。 清く正しいが故に悪党に追放されてしまう、貴種流離譚に近い。 救いは「別離の涙」だけなのである。 何よりも、この劇映画の舞台はゲームや多元宇宙の中のワンダー・ワールドではない。 今に続く現実。この現実と地続きの、かつて日本で現実に起こっていたとしても、少しもおかしくはない話なのである。 安易な解決には走らなかった映画である。 当然、救いはない。 とても美しく、悲しい映画である。 見ていて、心が引き裂かれそうだった。 「こういう啓蒙の仕方もあるのか」と思った。 つまり、見れば「俺には関係ない」と言えなくなる、極めて危険な映画なのである。 だが啓蒙とは、そもそも、そういうものだ。 多数決には馴染まない社会矛盾もあるからだ。 「足して2で割り、3方1両損」式の妥協では、何も前進しない社会的葛藤もあるのだ。 ヌルい現実をブチ壊さないと、過去の話にされてしまう矛盾もあるのだ。 島崎藤村の原作小説『破戒』は、実はかなりビミョーなシロモノだ。社会運動シーンから見れば、「これは、いかがなものか」と言いたくなるような部分も多々ある。 だが、原作小説が持っている、そういう困った部分も、この際、脇に置いておきたい。 島崎藤村は、社会運動的にはともかく、人間の真実は描いているからである。 だから、この映画が原作小説を大きく改変した事を、私は認める。 「そうか。こういうやり方をすれば、あの古色蒼然たる小説をリフォームできるのか」と、とても感心した。 屋根が崩落した廃屋を、リフォームして古民家カフェに再生したようなものだと思いたい。 今は亡き島崎藤村が、もしも本映画を見たら喜ぶのではなかろうか。島崎本人も、原作小説の至らぬ点は気にしていたのだ。 この映画の話に戻るが、若手は若手なりに、ベテランはベテランなりに、みんな緊張感を持って芝居に取り組んでいる。 役者の力って、凄いと思った。 こんなに緊張感あふれた映画を作る力が、日本映画に、まだ残っていたのかと感動した。 まだまだ捨てたもんじゃないと思った。

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