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明日になれば~アフガニスタン、女たちの決断~
2022年5月6日公開

明日になれば~アフガニスタン、女たちの決断~

HAVA, MARYAM, AYESHA

832022年5月6日公開

Dr.Hawk

2.0

ネタバレ問題提起は届かぬまま、現実は昏い道を歩み始めている

2022.6.2 字幕 アップリンク京都 2019年のアフガニスタン&イラン&フランス合作の映画(83分、G) タリバン政権が完全掌握を果たす前の2019年を舞台に、そこで生きた三人の妊婦を描いたオムニバス形式のヒューマンドラマ 監督はサハラ・カリミ 脚本はサハラ・カリミ&サミ・ハシブ・ナビザダ 原題は「حوا، مریم، عایشه(英訳するとEVE、MARY、AISHA)」、英題は「Hava,Maryam,Ayesha」と三人の妊婦の名前となっている 物語はアフガニスタンの首都カブールで生活を営む一人目の妊婦ハヴァ(アレズ・アリアプール)が描かれて始まる 出産間近にも関わらず、認知症の義母(Zabaida Ahmadi)の世話をしながら家事をこなすハヴァ 義父(Hanif Nezami)もくだらない用事すら自分でしない男で、飼っている鳥の天敵である猫をどうするかしか頭にない男だった ある日、夫(ハリム・アズマン)が家に友人を招待し、その用意に追われていたハヴァは、義父のしかけた猫用の罠にかかって転倒してしまう ハヴァはお腹の子どもが動かないことに不安を覚えて夫に懇願するものの、彼はハヴァの体に気遣わず友人たちとの宴席を優先してしまうのである そんなハヴァの家で流れていたテレビではニュースを読み上げるミリアム(フェレシュタ・アフーシャー)がいた 彼女は7年間の結婚生活のほとんどを夫に浮気されていて、離婚を間近に控えていた 上司(Najib Noori)からのセクハラまがいの番組斡旋などストレスを抱えていたが、ある日妊娠していたことが発覚してしまう 産むか堕ろすかを悩んでいたミリアムは、結婚式で着たウェディングドレスに身に包み、自分の姿を凝視する そして、そのまま寝入ってしまったミリアムの頬を、翌朝の光が焦がしていく 三人目の物語は、花束を抱えて帰途につくアイーシャ(ハシバ・エブラハミ)である アイーシャは母ベルケイス(Sabera Sadat)から従兄弟のスライマン(Faisal Noori)との結婚を望まれていて、恋人がいる身でありながらそれを拒めずにズルズルと結納を迎えていた その彼女のお腹には恋人との間にできた子どもがいて、彼女もその子どもをどうするかで悩んでいた 家族間で取り決められた結納は不可避で、スライマンの母(Nashima Nawabi)からも祝福を受けて引くに引けなくなってしまう そこでアイーシャは中絶を決意し、友人のマルジェ(Mariza Shariti)のツテを頼って、ある医院へと向かうことになったのである 物語はこの「医院」にて、三人の見知らぬ妊婦が出会うと言う場面で終わり、その後どうなったのかは描かれない 当時の情勢はタリバンがアフガニスタンの12%を掌握している段階で、8月にはアメリカとタリバンの間で和平協議が行われていた 翌年、アメリカ合衆国大統領ドナルド・トランプは「駐留米軍の撤退」をタリバンとの間で合意させてしまう また、大統領選挙で次点だったアブドラ・アブドラと、現職アシュラフ・ガニフ大統領の二人で政治権力を分け合う合意文書の署名などもあった 2021年に入って、首都カブールを掌握したタリバンはアフガニスタン政府に「平和的降伏」を求め、勝利宣言を果たす 現在でも反タリバン組織による抵抗は続き、「民族レジスタンス戦線」として現在も活動を続けていると言う状況になっている 映画が制作された当時とは国の情勢が反転しているので、彼女らの未来は暗いとも言える 「流産したこと」でより一層隷属的になるハヴァ 「中絶」によって、夫との別離を選択したミリアム 「中絶」によって、恋人と別れ、従兄弟との結婚生活に向かうアイーシャ それぞれは「そう生きるしかない」と言う方向に向かっていて、光が見えるような状況ではない 唯一、ミリアムが独り身になると思うのだが、彼女の立場上「タリバン政権のプロパガンダ」と言うポジションを余儀なくされるので、モデルよりさらに過酷な労働環境に突入したと言えるかもしれない 映画は「その後」のことなど予見できるわけもなく、監督の意志としては「決断」によって、意志のある人生を歩み始めたことを示唆しているのだろう それでも、映画制作の当時の状況では「現在のリアル」が予見できないとも言えないので、来るべくして来たとも言える どの道、「明日になっても何も変わらない」どころか、「悪化している」と言う認識になってしまうので、どちらかといえば「決断によって前向きに捉えられるエンディング」が真逆の意味を持っているようで恐ろしいと感じた タリバン政権に戻ることで「女性の権利はシャリーヤ(イスラム法)の則って保護される」と言う声明があったが、彼らのイデオロギーは「女性は誘惑的で、男性をアッラーフ(アッラーのこと)への奉仕から引き離す存在」と捉えているので、今まで以上に締め付けが厳しくなるのではないだろうか 映画単体としてはかなり単調で、女性の日常が等身大で切り取られている印象がある そんな中で、三人の名前が教義に関連しているところから考えれば、イスラム法やイスラム教をどのように捉えるべきかと言う問題提起を起こしたかったのかなと感じた ちなみにハヴァは「旧約聖書のアダムの妻イヴ」のことで、ミリアムは「旧約聖書の女性預言者の名前」で、アイーシャは「預言者ムハンマドの最愛の妻の名前」である ハヴァはアダムの子どもを堕し、ミリアムは孤独を選び、アイーシャはムハンマドを選んだとなるので、ある程度意味はあるのかなと思う このあたりは宗教的な観点で深いところを示していると思うのだが、映画のテーマからは外れると思うので、監督なりの裏設定(ちゃんと教義を理解しろ)と言うことなのだろう いずれにせよ、映画として面白いかと言われればかなり微妙で、現在の情勢とか宗教的な価値観を理解した上で楽しむタイプなので、日本人の一般層ではウケようがない パンフレットも作成されていなかったし、ウィキもやる気なしだし、IMDBでも詳細は放置されていたので、配役を調べるのが一苦労だった エンドロールでも主要3人以外は役名すら書いていない 色々と難しいところはあると思うのだが、女性視点のいつものイスラム社会的なテンプレートよりは一歩踏み込んでいるので、マニアの人にはオススメできるかもしれません

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