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君を想い、バスに乗る
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君を想い、バスに乗る

THE LAST BUS

862022年6月3日公開

Dr.Hawk

4.0

ネタバレ1300キロ先にあった、根源的な愛と哀しみ

2022.6.14 字幕 アップリンク京都 2021年のイギリス映画(88分、G) 妻との約束を果たすために、バスだけを使って、スコットランドのジョン・オグローツからイングランドのランズエンドを旅する老人を描いたロードムービー 監督はギリーズ・マッキノン 脚本はジョー・エインズワース 原題は『The Last Bus』 物語は若き日のトム(ティモシー・スポール、若年期:ベン・アーウィグ)とその妻メアリー(フィリス・ローガン。若年期:ナタリー・ミットソン)が、「1952年にランズエンドから旅立つ」様子が描かれて始まる 二人がたどり着いたのはスコットランドのジョン・オグローツで、そこはスコットランドのほぼ最北端だった それから数十年後、メアリーを亡くしたトムは、彼女との約束を果たすため、思い出の「ランズエンド(ペンウィズ・ヘリテージ・コースト、イングランドの最西端)」へと向かうことになった カバンと無料パス、そしてわずかなお金を持って出かけたトムは、次々にバスを乗り継いでいく その総距離は1300キロにも及ぶものだった 映画は「回想録」が効果的に挿入される構成になっていて、同じカットに「同時に若い頃の二人」が入り込んだり、映像で説明するシーンがとても多かった 字幕版なので野暮なもの(マーガレットの墓)もあったが、総じて「無駄なシーン」がひとつもなかった バスを乗り継いで遭遇する出来事はあるあるが多く、寝過ごしたり、子どもにいたずらされたり、カバンを奪われそうになったりと様々 そして、元整備工の腕前を披露し、見た目とのギャップを周囲の人々に与え続けていく また、本人の知らないところでSNSに投稿されたりする今風の演出もあるが、ほとんどの人が無断で動画を撮っているのは文化的な違いなのだろうか 行く先々で出会う人たちは、まるで「トムを映し出す鏡」になっていて、そんな中で要所で登場する女性にはどことなくメアリーを想起させていく 命懸けで旅をする中で、様々なトラブルに見舞われるものの、親切のバトンタッチが気持ちよく繋がっていき、そうしてゴールでは祝福されていく 彼らが何を目的でランズエンドに集まったのかはわからないが、きっと何かに夢中になるということが見つけられない人たちなのかなとも感じた 冒頭で「なるべく遠くへ連れて行って」というメアリーのシーンでわざわざ年代が字幕で出たので何かあるのかなと思っていたが、その回収がマーガレットの墓石というのが切ない マーガレットの短命の理由までは描かれないが、その悲しみが1300キロの旅をさせた それでも、最後はマーガレットのそばにという想いがあって、その約束というのは「病気の発覚」の時に生まれたものなのだと感じた 実際にはメアリーの病状ではないところが切なくて、その時点で健康だったメアリーの方が早逝してしまうのは神様の試練なのかもしれない おそらくは、どちらが先に死んでも「ランズエンドに戻る」ということを決めていたと思うので、その旅路に同行できたことは幸せ以外の何物でもないと思う 映画では「本人の知らないところでSNSに動画がアップされる」という今どきの展開が並行していて、怖い世界だなと思うと同時に、だからこそ繋がった親切というものもある でも、実際にはSNSなどがなくても、口コミで物語は紡がれるだろう SNSの功罪は様々あるが、本作においては「その事件が起きた場所の物語」が「その場だけで消化されない」ということを描いていて、その点と点が繋がっていくというのがSNSの力であると思える これは「善行のみならず」であり、レイシストや横柄な車掌などの行動も「常に一般市民に監視されている」ことを意味していて、ある意味においては「抑止力」になるのかなとも思う その一方でプライバシーというものが守れなくなっていて、広がりすぎた抑止力はいずれ規制されてしまうのかもしれません 要は、対象者がルール側だとその恐れが生まれるということであって、その対極にあるトムは「なすがまま」として晒されるだけと言えるのではないだろうか いずれにせよ、SNSの風刺は控えめで、性善説的な視点で描かれているのでハートウォーミングな物語になっている 人の目があるところには第三の眼が常にあって、そして晒されるのは「素」であるとも言える トムが出会う人々は飾らずに心の赴くままに行動していて、その関わりに埋もれることなく初志を貫徹する彼だからこそ感動を与えるのだろう 本作では「偉業見届け人」が多数参加しているが、こういった行為に人々が群れるのは、自分の人生をそこに投影したいと思っているからだろうか なので、自分の人生をしっかりと持ってる人はあの場には現れないし、何の情報が入ってこなくても、トムがたどり着いたことを信じているのではないだろうか

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