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青い凧 (1993)

青風箏/THE BLUE KITE

監督
ティエン・チュアンチュアン
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3.75 / 評価:12件

中共へ立ち向かった田壮壮

  • lamlam_pachanga さん
  • 2011年3月8日 18時09分
  • 閲覧数 1595
  • 役立ち度 3
    • 総合評価
    • ★★★★★

田壮壮(ティエン・チュアンチュアン)は、中国映画界における英雄。巨大権力(中共)に対し、映画と言う手段を用いて正面から喧嘩を挑み、あえなく叩き潰された人です。彼の映画キャリアは、この『青い凧』の後、10年に渡る空白を余儀なくされます。それは、この映画を撮ると決めた時点で決定付けられていたことだったのでしょう。しかし、仮に田壮壮がこの映画により懲罰の対象となることを知っていたとしても、恐らく彼は早晩この映画を撮っていたはずです。映画の前に、この経緯を少しだけ紹介しましょう。

中国映画好きには知られている話ですが、田壮壮の両親は中国映画界の重鎮です。父親は北京電影製作所初代所長の田方、母親は女優・于藍。比較的恵まれた家庭に育った田壮壮ですが、14歳の時、文革が始まると生活は一変。両親は紅衛兵に吊るし上げられ、父親は失意の中に病死。母親は強制労働中の事故で顔面麻痺を患い、女優復帰の夢を断たれます。田壮壮自身、他の「第五世代」と同様、吉林省へ下放されることに。

1975年に復員した田壮壮は、78年に再開された北京電影学院へ入学。82年に卒業すると監督として精力的に活動を開始し、そして、『青い凧』の撮影に臨みます。

この当時の時代背景として、89年の六四事件(天安門事件)が与えた影響を見逃すことは出来ません。高まる民主化要求を軍事力で叩き潰した中共は、政権批判に対する態度を硬化させており、映画界について言えば、様々な形で中共批判を繰り返してきた「第五世代」への締め付けが徐々に厳しくなっていました。

田壮壮は、そんな時勢に『青い凧』を撮ろうと決めたのです。

では、何故『青い凧』はここまで問題とされたのか。

中共批判の映画は幾らでもあるし、「第五世代」の面々も、ほぼ例外なく中共批判を展開していました。なのに、何故『青い凧』だけが。

それは、田壮壮が、他の誰もが決して踏み込まなかった領域へ踏み込んだからなのです。

『青い凧』は、中華人民共和国の成立自体が、1949年10月1日の共産政権樹立自体が、誤りだったのではないか、と提起したのです。

映画の物語は、この時期の中国映画に多い悲劇です。

1953年、建国3年半の中国。北京の胡同にある四合院で、新郎・小竜(濮存昕)と新婦・樹娟(呂麗萍)の結婚式が質素に行われた。若い国家の人民たちは理想の社会主義国家建設に燃え、幸せな新郎新婦は毛沢東の肖像画に敬礼し、集まった人々は革命歌を合唱する。結婚の翌年には息子が産まれ、一家は社会主義の下で幸せな生活を夢見ていた。しかし皮肉にも、彼女たちが信じる社会主義国家はやがて迷走を始める。

主人公は、新婦の樹娟です。田壮壮は、この女性が歩むことになる苦難の人生を、息子・大雨の視点で描きます。

ここでお気付きの方もいらっしゃるでしょうが、この樹娟とは田壮壮の実母・于藍であり、息子・大雨は田壮壮自身なのです。

物語の語部である大雨は、田壮壮本人の想いを代弁する者。

田壮壮は、この『青い凧』の物語を借りて、自らの人生と中華人民共和国を総括してみせます。そして、これまでの監督は決して踏み込まなかった領域=その結果までも描き、中共を断罪してみせます。

過去、「傷痕ドラマ」と呼ばれた文革映画と言うのは、文革の悲劇を強調する人間ドラマが大半でした。「第五世代」は、もう少し踏み込んで中共社会の矛盾を突いた映画を発表しますが、この『青い凧』は、中国映画史上初めて、そして恐らくは唯一、「文化大革命は何故起こったのか」を検証しようとしています。

そのため、田壮壮は文革以前(50年代)の整風運動にまで遡り、さらに建国時点にまで遡り、しかもそれらを否定してみせます。中共(毛沢東)の誤りを断罪するこの映画は、撮影中から様々な妨害工作に遭ったと言いますが、それも納得出来るほどに、中共の歴史の恥部を捉え続けます。

田壮壮の分身であろう大雨の最後の行動は、田壮壮から中共へのお礼参りなのでしょうか。

時代の波と言うには、あまりに理不尽過ぎるこの物語に考えさせられる人は多いはずです。

でもそれ以上に、撮影後に田壮壮が10年間の活動禁止に追い込まれ、今なおその活動を制限されていると言う事実。そして、この映画が未だに中国国内では発禁処分とされている事実。それを考えると、田壮壮に対するどこまでも理不尽な現実に、私は苛立ちを隠せません。

「中共支配が終わらない限り、この映画を観られる日はこないだろう」

『青い凧』は、中国でそう呼ばれる映画です。

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