作品レビュー(33件)
- kaz********
4.0点
テレーズはパリの場末でカフェを営んでいる。ある日、歌を歌いながらカフェの側を通り過ぎていくホームレスを見て恐れおののく。それは16年前に第二次世界大戦に出征して戻らぬ夫によく似ていたからだ。季節はちょうどバカンスに入る時で、客は減るころだ。男は記憶を喪失していた。テレーズはその男をカフェに招待し、夫の母親を呼び昔の話をして記憶を呼び覚まそうとしたが失敗。諦めきれないテレーズは、男の歌うオペラの音楽を流し料理をふるまい故郷のチーズを食べさせるが・・・・・・・。 なんとも悲しい物語りである。男はレジスタンスを救けドイツ軍と戦っていたが、気が付いた時には野原にいてとにかく前に進んだ記憶しかない。医師にも治らないと言われているというのだ。テレーズは夫の生死が不明にかかわらず再婚せずやってきた。母親は「恋心で見るから夫に見える。私は客観的に見るから息子じゃないと言える」と息子であることを否定する。 料理に招待した男が途中で逃げ出し、テレーズと常連客の数人が後を追いかけ、「アルベール・ラングロワ!」と叫んだ時、男が両手を挙げて止まるシーンがとても切なかった。 しかし、テレーズは諦めない。『冬を待つ』というのだ。日本の『岸壁の母』にも通ずる悲しさがある。戦争はいつの時代もどこの場所でもあってはいけないのだ。
- per********
4.0点
ネタバレ99%の確信と1%の疑念
このレビューにはネタバレが含まれています。 - cpi********
4.0点
ネタバレ悲しくて残酷
このレビューにはネタバレが含まれています。 - とみいじょん
5.0点
私にとって、生涯かけて忘れえぬ、大事にしたい、後世に伝えたい名作の一つ。 テレーズにとっては、大事な人。 そして、男にとっては…。 記憶喪失となっても、なお、蘇る記憶。 なんということか。心臓がえぐり取られたような感覚になる。 『かくも長き不在』 心の寄りどころ。自身の核となるもの。 だが、長い長い時を経て、その実体が陽炎のようになる…。 そこにあるようでないようで。 そこに、自分がいるようでいないようで…。 新たに与えられた名前とID。取り戻せぬ記憶。アイデンティティの喪失。 戦争が終わったというのに、ゲシュタポに連れ去られたまま戻らぬ夫。 待ち続けて16年。 女一人で生活の糧も得て、それなりの安定も得た。 自分に思いを寄せる新しい人もいて、その人と一歩踏み出そうとするその時。 「眼差しが夫だわ」 親類さえも「違う」というのに、テレーズは確信する。 最愛の人を忘れ、新しい人と一歩を踏み出そうとする自分を打ち消すかのように。 最愛の人の中に、自分自身ー長い失った時を取り戻そうとするかのように。 そのテレーズの散り乱れる想いを丁寧に追う。 確かめようと次々に図る計略。 狂信、弱気…。 その必死さが、滑稽にも、醜悪にも見えながらも、その心の揺れ動きに胸がわしづかみにされる。その一途さ。テレーズの内から輝きだす美しさ。 そんなテレーズにプライベート空間まで侵入されつつ、訳が分からない状態に困惑しつつも、優しく応じる男。 そんなテレーズを心配し、一緒に真偽を確かめようとする人々。 共に暮らしていても、新婚の頃とは変わる体形・好み・性格…。 何をもって、同一人物とするのか。 16年の空白が残酷に横たわる。 果たして、男は夫なのか? それを確かめる過程がなんとも格調高くロマンチック。 すぐにキスしてベッドインする今の人たちからしたら、まどろっこしいかもしれない。 お互いを探り合いながら、少しずつ間合いを詰める男女。 オペラ。シャンソン。 ディナー。お礼の贈り物。正装。 ダンスのホールド。 親切にされたからといって、その優しさに付け込まない矜持。 教養人たる佇まい。 全編を通して、泣かせようとする演出はない。 淡々と撮っている。 テレーズの豊かな表情に対して、男の表情はあまり変わらない。 でも、よく見ると、日々の中で小さな幸せを見つけている様、周りを窺う様、怯える様、好意をどう受け止めていいのか、わざと距離を撮っている様等、とても細やかに表現し、それらを丁寧に紡いでいる。 そして…。 もうだめかと思ったその瞬間の衝撃。否、戦慄。 それからの展開…。 それまで静かに進んでいた物語が、雷が落ちたかのように一変する。 こんな経験をする人を作ってはいけない。 心に誓う。
- mom********
5.0点
雑誌の切り抜きの入った箱の固く絡まったひもを男はほどこうとするとき、女は「切ったら」と言ったかなあ。戦争で受けた心的外傷は、記憶を喪失して精神の安定をはかろうとするまでに及んでいたのでしょう。女の夫は、多分戦死しており、戻って来ない。浮浪者を親戚は夫ではないと言う。女は何とかして夫の幻にすがりたいのでしょうね。俳優の長塚京三さんが、僕の俳優修業(1999年7月、筑摩書房)の中だったと思う、浮浪者役の俳優に「今度俺と映画に出ないか」と誘われたが、一向に連絡がなかった。酒の話だったのだろう、的なことを書いています。長塚さんはフランス語がペラペラなのだ。文章も素晴らしいのだよ。
- fuj********
5.0点
反戦を訴えたければ戦争そのものを描いてはならない。 これって常識だと思っていたんですけど、違うんですかね。 若い頃に触れた考え方で、咀嚼し飲み込むまでに時間がかかりましたが、 すでに私の血となり骨となっている。 戦争を直接描けば、その一部なりとも認めることとなってしまう。 例えば兵器には機能美があり、抗しがたい魅力を放つ。 あるいは猛々しい戦闘シーンには、一定の高揚感が認められたりする。 従って戦争を完全に否定するためには、 戦争そのものの描写を一切排除することが不可欠となる。 極論ですけどね、突き詰めて考えればそうなる、ということ。 『かくも長き不在』は、その好例とされる映画史に残る一本。 ナチスから解放されて久しいバカンス期のパリを舞台に、 戦争が何と無残に人々を引き裂くか、余す事なく炙り出す。 幾重もの謎を秘めて物語は静かに進行する。 小さなカフェの女主人は、なぜバカンスに乗り気でないのか。 閑散とした街に突如姿を現した浮浪の男は何者なのか。 やがてカフェの女給が男を指して呟いた一言が、事態を一変させる。 「あの人、警官が怖いのよ。」 男には記憶がなく、名前すら定かではない。 女主人は男の後を追い、歩いて、歩いて、歩き続けて、 ついに河畔の粗末な塒を突き止め、男をジッと見つめ続ける。 この「見つめる」という行為自体が極めて映画的だ。 主演アリダ・ヴァリの刺すような強い眼差しに導かれ、 観客もまた男の顔を、手を、一挙一動を、眼で追い続けずにはいられない。 この人物は本当に、生き別れた夫なのか、と。 終盤、女主人は男を自分のカフェに招き、本格的なディナーを振舞う。 男の好きなオペラを聴き、思い出の曲で一緒にステップを踏み……。 昨今の丸出し演出に慣れた目には、随分と抑制的な表現と映るかな。 私が本作で最も気に入っているのは、この場面の裏の展開。 素性の知れない浮浪者を自宅に招いた女主人を気遣って、 近所の人たちが皆んなでこっそり様子をうかがっているところ。 まるで落語に出てくる長屋の面々といった風情だ。 パリっ子にも人情がある。 言葉や文化が違っても、人間は深い根っこの部分で繋がっているのだ。 だが皮肉な事に、この人情が最終局面でアダとなる。 果たして男は記憶を取り戻すのか。 女主人の願いは、即ち観客の願いは天に届くのか。 サスペンスは最後の瞬間まで持続する。 男の身に一体何があったのか、誰の目にも明らかになっていく行は 一種のダブル・クライマックスを形成し、畳み掛けるように感情を揺さぶる。 下手に回想など挟まないのが上策で、本作の価値をグンと押し上げている。 私の中ではトップ10の第二席を占める大切な作品。 今回初めて、映画館の大スクリーンで観る機会を得た。 お終いの方では身体に震えがきてアワアワとなってしまった。 TVサイズでは何度か観て、結末も何もかも分かっているはずなのに。 やはりスクリーンで観る効果は絶大である。 映画は映画館で観ないと、死ぬ。 その思いを強くした、本年弥生上旬の得難い体験であった。 チャンスをくれた池袋の名館に感謝。
- kin********
2.0点
ネタバレ私には高尚すぎる
このレビューにはネタバレが含まれています。 - le_********
5.0点
このレビューにはネタバレが含まれています。 - yok********
5.0点
主人公の女性の深い愛がずっしりと重く伝わってきました。 ラストは辛すぎる・・・。
- stanleyk2001
5.0点
「かくも長き不在」1961 テレーズ・ラングロワ(アリダ・ヴァリ)はカフェを営んでいる。16年前にゲシュタポに連行された夫アルヴェールを待ち続けている。 1940年5月にフランスはナチス・ドイツに敗れペタン元帥の率いる傀儡政権ヴィシー政府が置かれた。ナチスに抵抗する人々はレジスタンス組織を作り地下で戦い続けた。 おそらくアルヴェールもレジスタンスの一員でありゲシュタポに逮捕されたのだろう。 ある日アルヴェールにどこか似ている浮浪者が街に現れ廃屋で暮らし始める。テレーズは夫アルヴェールに間違いないというがアルヴェールの母親は違うような気がするという。知人達もアルヴェールかどうか自信が持てない。 16年と言えば20歳が36歳。しかもゲシュタポの拷問にあったとすれば面変わりもしているかもしれない。カルロス・ゴーン氏も逮捕前はエネルギッシュな風貌だったが108日の拘置所暮らしから保釈された後は頰がこけ10年も歳をとったように見えた。 テレーズは浮浪者を食事に誘いレコードをかけて踊る。しかし彼の記憶は戻らない。 ラストシーンで彼のとった動作が私達に伝えるものがとても重い。 カンヌ映画祭パルムドール、キネマ旬報ベストワンを取った傑作だけれど監督アンリ・コルビの晩年は寂しいものだったそうだ。 「今村昌平が、映画の中の男のように両手を上げて見せたとき、アンリ・コルピ監督の目から大粒の涙がこぼれた。もともと映画の編集マンであったコルビは、デビュー作にして傑作『かくも長き不在』で世界に名を馳せた。だがその後は鳴かず飛ばずで、編集の仕事で細々と生活してきた。生涯ただ一作の監督であった。 ・通訳を介したフランス語の会話はもどかしかった。しかし今村昌平の仕草は、言葉よりはるかに雄弁であった。この瞬間、アンリ・コルビのさびしい晩年は報われたたのである。9年後、彼は84歳で死んだ。(公明新聞:ことばの玉手箱) 作家:関川夏央」
- MOON
3.0点
でも思いのほか時代の古さは感じなかったような。 たまには古い映画でも観てみようかな、のノリで、観てみました。
- ys4********
5.0点
ネタバレ辛い映画です
このレビューにはネタバレが含まれています。 - tit********
5.0点
このように素朴で穏やかな流れの作品は、今の時代にはなかなか見当たらない。 河辺に棲む浮浪男性、記憶を失くしたこの男に何があったのか。 テレーズは店に招き入れる。鏡越しに発見した後頭部の傷が苛酷な過去を物語る。 記憶戻らぬまま帰っていく男性の背後から、テレーズはたまらず名前を呼び掛ける。周囲の者も連呼する。 そして男の想定外の反応。 耳に響く声は投降を宣告する声、迫り来るトラックのヘッドライトは敵兵を照らす投光器。 この息を飲む展開で、この作品が反戦映画であることが一挙に明らかとなる。 彼は旅に出たとテレーズにうそぶく隣人の優しさ。テレーズが正気を保つにはそれを信じるしかない。季節が移ればまた戻って来るでしょうという儚い言葉が、観るものの胸深く沈んでいく。
- bar********
4.0点
ネタバレデュラス脚本への疑念
このレビューにはネタバレが含まれています。 - ot1********
4.0点
なぜ記憶喪失になったのか? 人間は嫌な事を忘れよう忘れようとする生き物らしく、極端な嫌悪、恐怖に対し極端な拒否反応として記憶喪失があるらしい。男にとって記憶を取り戻すことはあのおぞましい恐怖を味わうことである、ゆえに男は悲劇的な最期を迎える。男は16年の時の流れの中でどうやら居場所を失った異物であり、もうこの時代では馴染めず天に召されたのかもしれない。
- tos********
3.0点
ネタバレテレーザをそっと
このレビューにはネタバレが含まれています。 - tot********
4.0点
あらすじをみて、観る前からすごく期待していた作品です。鳥肌バンバン、涙ぽろぽろ・・・とはいきませんでしたが、やはり良かったです。A・ヴァリも良かったけど、私は記憶喪失の夫(?)を演じたG・ウィルソンの哀愁がなんとも言えず良かった。二人のやりとりも興味深い。一番衝撃的だったのはラスト近く、みんなから名前を呼ばれた時のG・ウィルソンの反応。これにはゾッとした。 ウルっとした感動を予想していたけど、かなりシリアスな展開だった。ただラストの言葉の意味は分かりにくかった。目立たないけど音楽もかなりいい。なるほどG・ドルリューでした。
- グッチけいぞう
4.0点
「第三の男」と並んでアリダ・バリの代表作では。夫の記憶を取り戻そうと必死な思いが辛いほど伝わってくる。 一緒に肩を並べてレコードを聴く二人の後ろ姿、ダンスのシーン・・・。あまりに切ない。 一瞬のある動作で、疑惑が確信に転じるシーン、見事としか言い様がない。 一生忘れられない映画になりました。
- 柚子
5.0点
フランスのバカンスシーズン… 街は閑散としている 戦争に行ったきり戻らない夫を、待ち続ける妻… 突如、夫に似た記憶をなくしたホームレスが… もしや、夫では? 妻はかつて夫が好きだった事を、あれこれ試す 夫はドイツ軍に何をされたのか… どれほどむごい拷問を受けたのか そのシーンを描かなくても、察することができる見せ方が、すごいと思う
- スーザン
4.0点
パリで小さなカフェを営むテレーズ。彼女の夫は戦時中ドイツ軍に連行されたまま行方不明だった。 ある日、夫にそっくりのホームレスを近所で見つけたのだが、彼は記憶を失くした男だった。 彼が夫だと確信し、男に近づく。 親戚たちは違うと言うが、希望にすがりたいテレーズは何とか記憶を取り戻させようと努力を重ねてゆく。 彼女の思いが愛おしく、そして戦争の、運命のなんと残酷で悲しい事か。 食事の後のダンスのシーン。 そして音楽。 一瞬、夫の心が帰って来たかと思われるも、やはり思いは叶わず悲しみは増す。 男の頭に傷を見つけた時の恐怖。 (拷問か) アリダ・ヴァリの切なくもひたむきな思いを込めた演技が絶品。