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カラマゾフの兄弟

カラマゾフの兄弟

THE BROTHERS KARAMAZOV

146

rup********

4.0

ネタバレブルックス監督、気合十分の力作

ドストエフスキーの長大な原作をハリウッド流にかみ砕いて映画化した作品ですが、2時間半程度の上映時間では到底描き切れる内容のものではないですし、ラストのドミトリイの扱いなど原作と全く違うものになっているため、評価の難しい作品であるといえるかもしれません。 キング・ヴィダーが監督し、オードリー・ヘプバーンがナターシャを演じた「戦争と平和」のようにかなりダイジェスト的な印象も受けるものの、脚本家出身で常に問題意識の高いテーマに正面から取り組むことで知られるリチャード・ブルックスが本作でも脚本兼監督を務めて、攻めの姿勢が感じられるのが良いです。 音楽は、ブロニスラウ・ケイパーが担当しているのですが、スコアの力強さという点では、エーリッヒ・ウォルフガング・コルンゴルトを凌駕してしまうくらいのインパクトがあります。 本作のメインタイトルは、ストラヴィンスキーの『春の祭典』にも似た激しい曲調に圧倒される感があり、個人的にはのちの「戦艦バウンティ」のメインタイトルと双璧をなす出色の出来映えと言えるのではないかという気がしています。 それに、MGM作品らしくキャストの充実ぶりは流石と感じさせてくれる素晴らしさです。 リー・J・コッブの演じる父親フョードルが冒頭で女と乱痴気騒ぎに興じる場面で瞬く間に作品世界に引き込まれますし、長男ドミトリイを演じるユル・ブリンナーは、「追想」に続いてのロシア人役で、彼の独特な風貌が文学作品の登場人物という現実社会との距離感を醸し出すのに大きく貢献しています。 このフョードルとドミトリイの父子対立の原因をもたらす運命の女グルシェンカ役に、既にヨーロッパ映画の第一線で活躍を見せていたオーストリア出身の実力派女優マリア・シェルをハリウッドに招いて起用しているのも注目ポイント。 マリア・シェルといえば、何と言ってもこぼれんばかりの天使のような笑顔がトレードマークで、本作のグルシェンカのような魔性を秘めた役柄の女性があのキラースマイルを見せるのですから、もうこれはドミトリイが一目見ただけで虜になってしまうのも無理はないというくらい説得力が大きいわけです。 スケート場で2人が出会う場面や、その後酒場でグルシェンカが上着を脱ぎ棄てて情熱的に踊るシークエンスは特に印象的。 ドミトリイは、ストーカーのようにグルシェンカに付きまとい出すのですが、彼女は父フョードルとも関係があって、フョードルによるドミトリイの借金の証文集めにも一役買っていたため、彼女を巡って父と子が争うことになり、やがて、フョードルが殺害される事件が発生。 ドミトリイは犯人として捕まり裁判にかけられるのですが、この事件におけるドミトリイの弟イワン(リチャード・ベイスハート)とフョードルの私生児と噂される召使スメルジャコフ(アルバート・サルミ)との関係性や神に関する哲学的な宗教観についての描写などはかなり表面的な感じがして、映像で描くことのできる限界を感じました。 また、金銭的援助によって急場を救ってくれたドミトリイに心を寄せるようになる女性カーチャをクレア・ブルームが演じていて、彼女の存在も忘れ難いです。 カーチャに遺産が入ってからはドミトリイにとっては金づるのような存在になっていたカーチャは、一見線の細いか弱い女性のような印象を受けるのですが、ドミトリイと別れるという約束をしたはずのグルシェンカからあっさりと手のひらを返された際に女同士でバチバチの火花を散らす場面や、終盤の裁判の場面でもドミトリイにとって不利な証拠を提出して冷徹に追い詰めていく女性の強さを見せるところも観ごたえがあり、「ライムライト」でチャップリンが見出した確かな演技力にも魅了されました。 <中古VHS、スタンダードサイズ版で鑑賞>

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