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狩人

狩人

OI KYNIGHOI/THE HUNTERS

172

bakeneko

5.0

ネタバレ蘇る過去の亡霊

1976年の大晦日に山野で狩猟中に、内戦(1942~1949年)の兵士の死体を見つけたことに端を発する―ギリシャの支配階級の6人が経験する不条理な体験を通して、内戦時期から現代までのギリシャの歴史を総括して見せる“社会&寓意ドラマ”の力作であります。 「旅芸人の記録」で、2次大戦中から1952年までのギリシャの混迷を、市井の人々が歴史的悲劇に巻き込まれるサスペンスと情念溢れるドラマの中に描いたアンゲロプロスは、 本作では、右翼&ブルジョア政権の確立&存続に暗躍した支配者層の記憶の反芻の形で、ギリシャ現代史を裏側から見せて行きます。冒頭の“ありえない”状況の提示から、次々と“過去の行状の亡霊”が明らかになる作劇は、寓話的&悪夢的な筆致で歴史を裏側から操っていた勢力の行状を諧謔的に浮かび上がらせています。 ルイス・ブニュエルの作品的な悪夢の連環を見せる語り口ですが、(ブニュエルが人間の根源的な欲望と本音を描いていたのに対して)より政治&文化的な風刺と寓意が込められた映画で、大島渚が「儀式」で、ある一族の家族史を通した寓話で“昭和の戦争と思想史”を描いた様に、本作は6人の行状を再現していくことでギリシャの現代裏面史を見せて行くのであります。 雪深い山荘の大晦日の静謐な風景の中に、グロテスク&滑稽な狂騒劇を見せて“権力簒奪&維持の醜悪な実態”を暴露していく作品で、「Z」でも描かれた“軍と政府”が関与した思想&民衆弾圧の実態も明らかにされていきます。そして、それぞれの人物が繰り広げる醜態は喜劇的でありながらも人間の心理を良く反映していて、特に“権力に阿る感覚=官能的な惑溺感情”に准えたエヴァ・コタマニドゥの怪演は圧巻であります。 雪深い森の冷たく寒々とした映像と人工的な室内光の情景は怜悧な知性を感じさせ、ワンシーンワンカットの長回しの視点は、この狂騒劇を突き放した俯瞰感覚で見せて行きます。 「Z」や「旅芸人の記録」等でギリシャの現代史を勉強した後の方がより楽しめる作品ですが、予備知識なしでも“旧悪が次第に露呈する”状況から過去の所業を知的に推理しながら“権力の醜怪さ”を体感する事の出来る映画で、現在のEUを困らせている“ギリシャ社会の体質“を実感できる映画であります。

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