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危険なめぐり逢い

危険なめぐり逢い

JEUNE FILLE LIBRE LE SOIR/LA BABY SITTER/THE BABYSITTER/WANTED: BABYSITTER/THE RAW EDGE

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4.0

クレマンは大衆作家だったのか?

手元にアメリカに滞在していた時に買った映画のガイド本がある。これは日本で言う「ぴあシネマクラブ」みたいなものだが、それにはちゃんと作品の評価星がつけられている。最高点は★4つで、最低は《BOMB》という★さえつけてもらえないものまで。だが私の目から見れば愛する映画が意外にも《BOMB》映画とされていたり、一方ではそれほどの作品じゃないだろうなんてのが最高点に近いものをつけられていたりと、絶対的な評価の固まるクラシック映画とは別に監修した映画評論家の好みがやっぱり出ているもので(笑)、それほど映画が奥深いものであると実感することしきり。  で、たまたま今回のツタヤ半額ものでレンタルしてきたのがフランスの名匠ルネ・クレマンの実質的遺作となった「危険なめぐり逢い」。調べてみたらなんとこれが《BOMB》映画!そんなにひどい映画だったのかと、永年見られなかった封印を解いてみたら・・・これが面白い。というかそんなに《BOMB》映画にされる映画なのか?少なくとも日本の二時間サスペンスに比べたら天と地ぐらいの面白さの差があるってなくらいの一本。そこはスピードが大切な要素のアメリカ人が批評する映画の評価だ、フランス映画特有のテンポに幻滅したとも言えないのだが、それを抜きにしてもボムはひどいだろ、ボムは!といううわけでこの映画のレビューならびルネ・クレマンについて少し書いてみたい。  そもそもルネ・クレマンは大衆作家なのか? たとえばどの国にも芸術肌の監督と大衆娯楽映画を中心に作る映画監督が存在する。そのバランスを兼ね備えた人間の作品が永遠に世界中の人に見られるわけで、フランス映画界でいえば前者がルノワール、後者は我が愛するジュリアン・デュヴィヴィエだろう。そんな通俗、を作った作家が【ヌーヴェルバーグ】の一派に葬られたという事実の中、それでもクオリティの高い作品を作り続けたのがルネ・クレマンだった。彼の代表作は「禁じられた遊び」「太陽がいっぱい」を始め名作も多いが、後年はいわゆるサスペンスを軸にした娯楽作品へとシフトしていった。この「危険なめぐり逢い」もまさにそんなサスペンスものだ。  ローマに住む苦学生の女性がアルバイトのためにベビーシッターの仕事に行くが、実はそこにある誘拐事件が絡んでいたというのが大筋。その仕掛けがまず素晴らしい。知らない間に誘拐犯人にされた、というヒロインとそれを仕掛けたルームメイトの女が、実は真犯人に利用されていた・・・という筋書きこそは目新しいものでもないが、じゃあ通俗的なサスペンスかと言われれば私は「NON」と答える。とにかくその描写における空気のとらえ方が通俗作家には見られない独特のリズムなのだ。  たとえばハリウッド映画はスピーディにテンポよく物語を進めるも、終わってみれば監督の顔さえ見えない大衆消費型な映画が圧倒的に多い。そんな大まかな枠の中で、スピルバーグのような才能ある監督が時折現れる。そして一種の芸術として花開く。そんな目からみればこのクレマンの作品はテンポも遅いしリズムも違う。だからアメリカでは愚作にされたのだろう。  しかし、彼の作品を永年見てきた人間からすれば決してクレマンが大衆迎合の消費的娯楽映画を作ったようには見えない。むしろあのリズムとカメラの描写、そしてオチまであくまでも【リアリズム作家】だった彼の作風が息づいているのだ。そう、彼は立派な芸術肌の映画監督なのである。  特にこの当時、鬼才とされる映画監督の作品に起用されていたマリア・シュナイダーのアンニュイな表情は、通俗的に見えるサスペンスの奥底にクレマンが狙った信じられない出来事に対する素直な反応をちゃんと表現していて見事。相手役になるダマす女シドニー・ロームの美しさも必見だし。さらにはハリウッドから流れてきた役者を演じるロバート・ヴォーンや妖しい誘拐犯ヴィック・モローまで決してつまらない配役ではないのが魅力である。  確かに全体のバランスから見れば高い評価には至らないけど(笑)。  とにかく人の評価など気にしてはいけない。私のレビューもあくまでも私の好みが優先しているので(笑)、いかにも面白そうに書いても駄作って事は大いにありうる!(笑)でも結局、好きなものは好きでいいのである。納豆にマヨネーズをかけて食べても誰も文句は言わん!問題はそんな人の事を罵倒しない事、ただそれだけだ。  てなわけでやっぱりクレマンは巨匠なのだ、ということを再認識した一本でした。

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