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去年の夏 突然に

去年の夏 突然に

SUDDENLY, LAST SUMMER

114

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5.0

三人称で正気を保つ

1959年。ジョセフ・L・マンキウィツ監督。死んだ詩人の母親(キャサリン・ヘップバーン)はロボトミー手術で有名な精神外科医(モンゴメリー・クリフト)に姪(エリザベス・テイラー)の手術を依頼する。しかし姪の狂気を疑った医者は息子の死の真相を知ろうとする、という話。「女性の狂気のなかには真実が隠れている」というフロイトさんが知ったら大喜びしそうな題材。母と息子の隠微な関係やあと一歩で同性愛という詩人の描き方、「肉」としての人間と「精神」としての人間という対比など、なにやら精神分析めいた装いに事欠かない映画です。 しかしすばらしいのは、姪のテイラーの語り。詩人の言葉を引用し、自分の日記を引用する。とくに真実を回想するラストの場面では、画面の半分に語る彼女の顔があり、過去は残り半分に無音で映っています。焦点を失った彼女の視線とともに過去が語られる。過去と現在の語りにおける共存。レイプされて人間不信に陥ったという彼女はその傷から回復する時に三人称で日記を書きはじめたというのだから、引用=「語り直す」ことは彼女が生きることそのものなのです。狂気だと決め付けられる彼女は三人称で語り直すことで正気を保つ。もちろん、マンキウィッツ監督の作家的なこだわりが「声」にあるのはどの映画を観てもわかりますけど。(この映画ではヘップバーンの登場も「声」から。しかも天井からの) 真実を追求するというモンゴメリー・クリフトの瞳が、焦点が定まらずどこを見ているのか分からないほど薄いのも注目。まっすぐに焦点を定めた濃い瞳では真実は探れないのです。その目で「真実に抵抗するのはやめなさい」とテイラーに語りかけるとき、彼女に抵抗する力がないのもうなづけます。

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