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刑事コロンボ/二枚のドガの絵

刑事コロンボ/二枚のドガの絵

COLUMBO: SUITABLE FOR FRAMING

74

真木森

5.0

いけ好かない評論屋に一般意志による裁きを

ピーター・フォークが亡くなりました。彼は役者としても極めて力量のある人で、J.カサヴェテス作品に出演したのはその矜恃でしょう。しかしやっぱり彼は「刑事コロンボ」でした。それは本来は色々出来たと思われる渥美清が本当に優れたアクターであるが故に「寅さん」という畢生のキャラクターを形作り、そのイメージが強すぎてしまうのと同期です。先般故人を偲んで3作の「刑事コロンボ」が放映されましたが、その一本が本作で納得のチョイスです。あの見事な幕切れに圧倒されて「刑事コロンボ」ファンになった人は数限りないと思いますから。  私も本作を初めて見たのはまだ小学6年生でしたが、もう面白い! 幕切れもさることながら、パーティーでのスノッヴな会話(デイルのジョークは思いっきりベタで「人類万歳!」なんて失笑ものなのに、取り巻きの笑うこと全く不自然ですなあ)、絵画に関する蘊蓄、TV撮影の裏舞台、等々、さすが海外の刑事ドラマはサブストーリーもゴージャスだなあって感心しましたよ。それに出演している人達が何気に豪華なんです。金曜ロードショー枠の水野晴郎解説で初めて判明したのは、エドナを演じているのがキム・ハンターで、確かに猫背気味で目のキョロキョロしている感じは『猿の惑星』ジーラそのものですね。そしてドン・アメチーが出ていると言うことも。当時の私が『天国は待ってくれる』とかを知っているはずもないのですが、本作での登場は忘れがたく、後に『大逆転』や『コクーン』を見た時に「おお、『二枚のドガの絵』に出ていた人だ!」ってマニアな喜びを禁じ得なかったです。主役のロス・マーチンは演技上P.フォークの師匠筋だそうです。P.フォーク見たさに『グレートレース』を鑑賞していたら、「あらっ、デイル・キングストンが出ている」って随分驚いたし、この前『フォロー・ミー』の吹き替えバージョンを鑑賞したら、トポルが二代目コロンボの石田太郎、M.ファーローの夫役が本作R.マーチンを当てている西沢利明で、やけに既視感がありましたね。声優ついでで言うとドン・アメチーの声はボヤッキーの人と同じで、画商のおばさんはフネさんの声ですね。ちなみに「奥様は魔女」でサマンサ一家の隣人のおしゃべりおばさんの人が出ているそうですが、どの役の人だか判明しません。ヌードモデルをやっている子は愛嬌あって好みのタイプだなあ。  肝心の本編についてですが、これはもう何度も述べているように一刀両断の見事な結末が「天晴れ!」というしかありません。恐らくはこのエンディングがシナリオの原点にあって、そこから演繹的に作品全体を書き上げたのが本作だったものと推します。だから犯行や捜査の細部については結構ズサンな処理をしている部分も多く、そもそもデイルのアリバイ工作と電気毛布のトリックは何も触れられずに流されますし、女子大生殺しも穴がいっぱいありそうなのにあまり追求されず、むしろデイルとの交際があったか否かという点にのみ集中して描かれる。犯行方法も結構おざなりで、強盗が入ったように見せかけるため室内のものを荒らすのは「これはプロの仕事じゃありません、単にやたらめったらかきちらしているだけです」と言わんばかりの稚拙さ。そもそもエドナの家に凶器の拳銃やら証拠の包み紙やら投げ入れたり、ドガのパステルを仕込んで彼女の犯行にしようだなんて発想も大ざっさぱすぎるし幼稚ですらあります。それに警察が「必要ない」って言ってるのに執拗に食い下がって家宅捜索の必要を力説して、弁護士は「こいつが怪しいんじゃないか」と思わなかったのでしょうか。  ただしコロンボも弁護士もデイルを犯人だと疑っていて、二人とも狸寝入りのふりをして彼を誘導させたという裏目読みも出来ます。デイルは徹底していけ好かない風に描かれていて、これなら叔父さんも「あんな恩知らずの傲慢な奴には遺産など残してやらん!」って決意したのは当然かも知れません。美術評論家としての眼力もどうなのでしょうか。作中でもマシューズコレクションをツテに方々顔を売ったなんて言われていますし、単にハッタリと叔父のコレクションの威名と毒舌&阿諛追従織り交ぜた業界マキャベリズムで高名をはせた「政治屋的評論家」の臭いがします。それは関係者を道具のようにしか見ない冷血的姿勢や、すでに定評のあるものばかり賞賛して現に今作られているアートには一片の価値も認めない態度に顕著です。本作はそんな悪意の塊のようなデイルという人物に人々がそっぽを向き、堕ちるべくして堕ちるような大いなる意志が働いていたようにも見え、遅かれ早かれ彼は転落したのではないでしょうか。デイルは最後の瞬間まで自分が四面楚歌だと思っても見なかったようで、滑稽ですらあります。コロンボはそれに引導を渡す死刑台の神父。もしくは名判官大岡裁き。この見事な勧善懲悪劇に皆さん見入って下さい。

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