殺しが静かにやって来る (1968)
IL GRANDE SILENZIO/THE GREAT SILENCE/LE GRAND SILENCE
- 監督
- セルジオ・コルブッチ
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ヨーロッパから見たアメリカの本質と意趣返し
- yam***** さん
- 2020年6月12日 17時14分
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- 総合評価
イタリア / フランスの共同制作
監督、イタリア人(共産主義者)
主演、フランス人
敵役、ポーランド生まれのドイツ人
マカロニウエスタンの形を借りて、ヨーロッパの映画監督と俳優達が本作に込めた2つの動機を勝手に考えた
その1:アメリカの本質を描こうぜ!
その2:夕陽のガンマンに意趣返しをしようぜ!
山の民たちは飢えを凌ぐために老若男女が武装して脱法行為を繰り返し、野盗と呼ばれている
野盗には賞金がかけられている
賞金稼ぎの男たちは民間の治安維持部隊よろしく、野盗相手に合法的な人間狩りを繰り返す
判事は邪魔者を恣意的に犯罪者に仕立て上げ、賞金稼ぎに殺させる
黒人は差別され、女はレイプされる
正義は負け、復讐は果たされない
善人は射殺され、悪人は栄えていく
愛は成就せず、ヒロインも殺される
法と金を握った権力者が弱く貧しい者たちを蹂躙する
ここに描かれた「アメリカの姿」にはなんの救いもない
ベトナム戦争まっただ中の1968年、共産主義者でもあるらしいコルブッチ監督には空虚な勧善懲悪お気楽映画など作れなかったのだろう
エンドロールで流れる字幕で、1898年のユタ州スノーヒルでの虐殺事件を下敷きにしていることが分かる
でも、これはホントに過去の話なのかな?
広大な国土で崩壊した警察組織と治安、武装し対立する小集団、生きるために殺し合う弱肉強食の世界…
これ、近未来のアメリカの姿じゃないだろうか
アメリカは今ゆっくりと本来の姿に戻りつつあるのかも知れない
また本作は夕陽のガンマンの裏返しになっており、賞金稼ぎに狩られる者の視点を描いている
セルジオ•レオーネが作ったニヒルで非人間的なヒーロー像に対する強烈な意趣返しである
賞金稼ぎは裏を返せば正当化された人間狩りでしかないのだと…
メッセージが強烈過ぎて娯楽映画からはみ出してしまい、数カ国で上映禁止になったのは皮肉な話である
以下、気になったセリフやシーンなど
ポリカット(ルイジ・ピスティリ)
判事、銀行(金貸し)、商売人の一人三役を兼ねる
眼鏡、変な帽子、マント姿
ユダヤ人のステレオタイプをギュッと詰め込まれたようなキャラクター
金に不自由しないが女にモテない
サイレンス(ジャン=ルイ・トランティニャン)
本作のヒーロー
幼少時に両親を殺された上に声帯を切り裂かれ声を奪われる
早撃ちでは誰にも負けない
金で殺しを請け負う
ターゲットにはわざと喧嘩をふっかけ、相手に先に抜かせてから射殺して正当防衛を成立させる
許しを請う男は助けてやる代わりに手を撃ち抜く癖がある
右に銃を吊しているので利き手は右だが、左手でグローブをしたまま同時に投げられた3個のイモを撃ち抜いてみせる
女と安息を得るがその代償に右手を焼かれる
変な銃のギミックと左手でどうにかするのだろうと当然期待したが、あっけなく左手を撃ち抜かれる
伏線は回収されるはずという甘い期待もあっさり裏切られるw
ロコ(クラウス・キンスキー)
女物のショールを被り、山田康雄のような優しく甘い美声の持ち主という、どこか女性的な一風変わった敵役
青い目とソフトな声をした残忍な賞金稼ぎをキンスキーさんが熱演!
「危ない連中なんでね。
神と人間の敵です。
あんな連中がはびこれば、世も末です。
抹殺するのは愛国者の義務だ」
彼の言葉はまるで神を信じる正しい愛国者のものw
彼は劇中で3人射殺する
①右手で女の頭に銃を突きつけたまま、左手で夫を射殺
②騎乗したまま右手で懐から銃を抜き男を射殺
③腕組みして現れ、左手で懐から銃を抜きサイレンスを射殺
毛皮のロングコートに隠された、胸に吊した銃
酒場でカードゲームをしているシーンでは胸の前に1丁だけぶら下げていたが、恐らく2丁の銃を左右どちらの手でも抜けるように交差させて吊っているのだろう
スープスプーンを左手で持っていたのは、元々が左利きなのか、それともトレーニングか
主人公の愚直な無策に比べ、はるかに賢いw
アメリカで生き抜くには直情型の早さより賢い狡さ、それを教えてくれている
「そんな挑発には乗らないよ、
おれは自制心が強いw」
この台詞はただの強がりではなかった
ポーリーン(ヴォネッタ・マギー)
当時23歳でほぼ映画デビュー作
新人とは思えない目力で美貌の未亡人を熱演
この後70年代、Blaxploitation映画で活躍する
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