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コンバット・ショック/ベトナム帰還兵残酷物語 (1984)

COMBAT SHOCK/AMERICAN NIGHTMARES

監督
バディ・ジョヴィナッツォ
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  • みたログ 3

4.20 / 評価:5件

オリジナル版『ジェイコブス・ラダー』

  • gypsymoth666 さん
  • 2014年4月11日 15時49分
  • 閲覧数 659
  • 役立ち度 1
    • 総合評価
    • ★★★★★

この映画はホラーでもランボーのような哀しみを秘めたヒーローアクションでもない。戦闘シーンもほとんど出てこない。戦場で無残に引き裂かれた兵士や村民の姿がセンセーショナルに現れるだけだ。あとはひたすらに絶望の物語が生々しく展開される。

主人公を演じる男も過去にベトナムで激しい戦闘に身を投じた人とは思えない線の細さで、優しい頼りない風情をしている。ヒッピーを目指そうと思わずとも散髪にもいけないぼさぼさに伸びた脂ぎった髪、分け目がすっかり薄くなった様が、観たこともない役者であることも加勢してリアルさを増幅させる。何より衝撃なのは、街の荒みぶりだ。もちろんロケ班して、一部は小道具を潜ませた場所ではあろうが、荒廃した景色。そこには仕事も金もなく、ただ時間をどう潰せばいいかわからないままにクスリに走る若者たちの姿がある。彼らが潜む不衛生なゴミための空間には、空き缶や腐敗した食べ物だけでなく、注射針も無数に落ちる。

クスリが切れて震えて何でもやりかねない主人公の友人は、売人からクスリを受け取るが注射器がない。転がっている注射器をみても針がない。やむを得ず針金で、すっかり黒ずんだタコ状になった自らの腕の血管を針金で穴をあけてそこにクスリを詰め込む。しかし彼はクスリが原因だったのか息絶えてしまう。薬物を求める衝動に震え、ゴミための中でのたうつ役者が素人であるほど、リアルに作られたものではないほどに生々しい臭いと絶望が伝わってくる。

やるせない、終わりのない絶望の物語。しかしこの映画をホラーなのか、ドラマなのか、SFなのか?特別な存在に浮遊させているのは生まれて1年もたつのに成長のとまったシワシワで奇怪な容貌の子供だ。この作品がデビッド・リンチの初期の傑作『イレイザーヘッド』(1976)となぞられホラーの側面からとらえるのもこの子供の存在ゆえだろう。ここまで不幸と絶望の世界、そして人を無数に戦場で殺害してきた罪深さと後悔を抱えたまま親になった男の分身は、彼に抹殺された人々の怨念の分身といえる悲劇。

死んだ友人の銃を手にした男の破壊への衝動は止まることはない。ヤクの売人や高利貸しを抹殺。拳銃を持ったまま自宅に戻った先には、さらにののしりを募らせる妻と、壊れた楽器のようなノイズの鳴き声の子供。壊れたテレビの砂嵐をみつめる彼に自分が過去に虐殺した村人やベトコンなどの凄惨な現場が繰り広げられる。震えが止まらない男。そのクレイビングはドラッグに対してではなく、戦争と殺人、暴力に対する渇望の衝動だったのか?男は持ち帰った拳銃で、すべてに決着をつける。この決着の付け方もホラーだが、ホラーとして扱わない淡々としながら、やりすぎな残酷描写はさらに救いようのなさを上塗りする。
全てが終わり、最後に彼の住まいのそばを何もかわりがないように、鉄道が夜闇の中を走りぬけていく。どのような悲劇も喜劇も世の中ではそこに生まれおちてしまった以上、変えようがなく淡々と過ぎ去っていくような無情感。この一本の鉄道が過ぎさる映像に、ただのC級戦争映画、B級ホラーにはとどめておくことはできない深い余韻が残される。

主人公の男のイメージに時折挟みこまれる、ベトコンの捕虜になった際の地下に隔離された光景、脱出した後病院のベッドで「なぜあんなに殺したんだ?!何があったんだ!?」と上官に詰問される場面。本当に男は帰国してからの悲劇を生きているのか?彼は実はまだベトナムの戦闘の渦中にあるか、またはベッドの上で負傷により生死をさまよう中で帰郷後の悪夢を見ているのではないか?その象徴が、エイリアンのような赤子ではないのか?とも思えてしまう。
こう考えると全く同じようなハリウッドメジャーの映画があったことを思い起こす。エイドリアン・ライン監督のスリラー映画『ジェイコブス・ラダー』(1990)だ。主人公のティム・ロビンス演じるベトナムの兵士は、安全な地帯にいたにもかかわらず突然激しい戦闘に巻き込まれる。ひん死の重傷を負うが無事帰国したロビンスだったが、彼の前には時と場合によって全く異なる女性が妻だと現れる。また出会う人々は突然激しい痙攣をおこしたり、それに周囲が全く気づかなかったり、悪魔のような顔の男たちが付きまとう…など悪夢を絵に描いたような世界が展開される。これは何なのか?次第に明らかにされる悲しい物語。

よく考えるほどにこの作品は『ジェイコブス・ラダー』にそっくりであることに気づく。もちろん同作の6年後に公開された『ジェイコブス…』はリメイクともインスパイアされたとも、オマージュとも示されない。しかし確実に同作は影響は与えているに違いない。ここにもただのB級、C級ではとどまらないこの作品の力を確信するのです。

詳細評価

物語
配役
演出
映像
音楽

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  • 絶望的
  • 切ない
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