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シーズ・ソー・ラヴリー

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5.0

その身を焦がせば見えるよ…きっと。

少し寒くなってきた平日の夜だ。 気のおけない仲間たちが集う飲み会の席でテーブルを挟み 差し向かいに座った二十歳そこそこのうら若き女性に 「恋愛と結婚の決定的な違いはなんですか?」 などと、人を疑うことを知らない純粋無垢な瞳で尋ねられたとしたら 照れも隠れもせず僕は迷わずこう答えるだろう。 「いいから黙って、この映画を観てみることだね」と。 この疲労困憊した、 もはや信じられるものすら見失いつつある日常の中で唯一意味のあるもの、 あるいは、日々押し寄せる様々なストレスや馬鹿げた誹謗中傷によって 鬱屈した毎日に疲弊しきっているそのときに、およそカンフル剤としての 役割を果たすもの。 それは『愛』だ。 ただし勘違いしてもらっては困る。 「好きだ」の「愛してる」などと人前でちゃらちゃら自慢たらしく 小鼻を蠢かすような輩のそれとは、むしろ別格の『純粋な愛』を カサヴェテスはこの映画の中でただひたすらに描いていく。 妻が妊娠しているにも拘らず3日も家に戻らず遊び歩いている夫。 怒りながら泣きながら夫を探し、ひたすら帰りを待つ妻。 上辺だけで見ればどうしようもない夫婦がいる。 ぎゃあぎゃあと泣き喚こうが、罵声を浴びせられようが女を愛す男。 放っておかれようが、ひっぱたかれようが男を愛す女。 お互いは知っている。 この世の中で心から愛している唯一の存在だということを。 しかし二人は、ある事件をきっかけに離れ離れになってしまう。 男は精神病院に収容され、身重の女は新しい生活を求めて違う男と再婚する。 かわいい二人の娘の笑い声と優しい夫の愛に包まれた生活。 あの不安に押しつぶされそうな毎日では到底成し得ることのできなかった静穏な日々。 あぁ。やっぱり女は安定を望むのか。 『愛』だの『恋』だのなんて、どだい夢物語なのか。 彼女に対して瞋恚の炎を燃やさないまでも、いや、その胸糞悪さに腸が煮えくり返らないまでも、 いかにもな温かい陽だまりの中での安閑とした暮らしっぷりに軽い嫌悪感を抱きはじめたとき、 退院した元夫が彼女を取り戻しにやってくる。 はたして彼女はどうするのだ? 僕は、あるいはキミは固唾を呑む。 究極の「愛」だけしか持ち合わせていない男か? 欲求のすべてを満たしてくれる優しい旦那か? かけがえのない可愛くて愛しい娘たちか? 穏やかで静かな生活か? 燃えるような愛の暮らしか? ところがキミ。そんな選択肢に悩まされる話ではないのだよ。 拍手!パチパチパチ…  その人を愛すること。  その人を想うこと。  その人を感じること。 それ以外に必要なものなどありはしないのだ。 だから彼女は、これっぽっちも迷わない。 その決断のためにどう動くのかだけをひたすらに考える。 雨の夜。 たった数時間。 ダンスホールでの甘い記憶。 あの夜の濡れた瞳をおぼえているから。 あの夜に絡めた指の感触が胸を震わせるから。 あの夜握った手の温もりが心を熱くするから。 あの夜抱きしめたあなたの体温が『愛すること』を思い出させるから。 体中の細胞すべてがあなたを求めるんだ。 そこに理由なんていらない。 そこに理屈なんてない。 「愛は寛容ではない 類まれな優しさ」 そういうことだ。 この映画を観終わって、可愛らしいお嬢さんは思うはず。 「なんて恥ずかしい質問をしたのだろう」と。 恋愛と結婚。 違いなんてない。 相手を死んでもいいくらいに愛すること。 自分でもどうしようもないくらいに恋に堕ちること。 そのとき抱いた一瞬の気持ちを、あなたが生きていく理由へと昇華できるのなら。 その深く清らかで純粋な想いを愛する人が胸臆にしまってくれるのなら。 もうそれだけでいいじゃないか。 イヴちゃんに太刀打ちできなくっても、 カンちゃんやベタちゃんに笑われようとも、 ねじちゃんに「あはっ♪」なんて軽くあしらわれようとも、 シロちゃんに「しょーがねーなぁ(笑)」と言われようとも。 僕は、あるいは、僕たちは吼えるぞ。 これこそが『純愛』なんだと。 【居酒屋の壁にもたれて甘い夢を見る子猫ちゃんへのアンサーレビュー。  あるいは、盟友へのオマージュ&復活へのカンフル剤として…】

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