ジェラール・フィリップの遺作
- omoidarou さん
- 2013年10月6日 0時03分
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36歳で亡くなったジェラール・フィリップの遺作となってしまった「熱狂はエル・パオに達す」(1959)、36歳のときの作品だ。
舞台が南米の小島の政治色いっぱいのサスペンスとあって、なかなか見る気になれなかった作品だが、50年来の大ファンとあっては遺作を見ないわけにもいかず、レンタルDVDを手配して鑑賞してみた。
レビューが一件もないのだから、やはり普通の人は見ることのない作品なのだろう。
ルイス・ブニュエル監督というのは、あのカトリーヌ・ドヌーヴの「昼顔」を創った変な監督さんというくらいしか知識がなかったのだが、何となく熟達した映画づくりの達人といった印象を受ける作品だった。
ジャン・ギャバン的な渋い男の陰影が深いジャン・セルヴェが上手い、「フレンチ・カンカン」でフランソワーズ・アルヌールをいたぶる嫉妬深い美女を演じたマリア・フェリックスはメキシコが生んだ大女優なのだという。
乾いた寂しさを感じさせるギター1本の音楽がやたら印象的だと思ったら、何と「モンパルナスの灯」で奇跡的な表現を演出していたポール・ミスラキが音楽担当で、映像センスもかなりいいと思っていたら「イグアナの夜」を撮ったガブリエル・フィゲロアが撮影担当だという。
かなりな人材が集まって創られた映画だったということを知った。
私の鑑賞能力の上を行く人たちが集っているとあっては下手な分析はしてもしょうがないような…気がする映画。
独裁政治からの脱却を目指して奔走する理想主義者の書記官(ジェラール・フィリップ)の愛と出世の皮肉な運命を描いた作品。激情的に愛を求めるマリア・フェリックス、悪人に徹した魅力あふれるジャン・セルヴェが印象的なため、ジェラール・フィリップは愛に徹することもできず、権力一途にもなれず…というまさにどっちつかずの難しい役柄。
しかし元が有能だから結局は権力者の地位に昇りつめるのだが、大学時代に敬愛した教授が政治犯として殺されてしまうし、愛した女性も死なせてしまい、失意の内にせっかく手に入れた総督の地位も大統領命令に背いて投げ出してしまうという、ちょっと「赤と黒」のジュリアン・ソレル的な役回り。
政治の権力闘争もいっぱい、女性をめぐる愛欲もいっぱいなのだが、何故か淡泊なさらっとした印象に包まれている不思議な映画。
つまらなくも面白くもないのだけれど、どこか大人の映画…といった印象が魅力的な作品だった。
ルイス・ブニュエル監督にとっては、政治的な権力腐敗も男女のエロティックな愛憎も、結局大した問題じゃないよ…とでも言いたげだ。
私としては、ジェラール・フィリップのあの遠くを見つめているような顔が拝めるだけで大満足でした。
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