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SHOAH ショア (1985)

SHOAH

監督
クロード・ランズマン
  • みたいムービー 73
  • みたログ 33

4.55 / 評価:11件

人間の醜さ

  • cyborg_she_loves_me さん
  • 2017年12月23日 18時27分
  • 閲覧数 764
  • 役立ち度 6
    • 総合評価
    • ★★★★★

 公開当時、ボランティアの学生団体が無料(寄付歓迎)の上映会を開催したので、そこで見ました。朝から夜まで、各部の合間には20分ぐらいだったかな、昼休みは昼食のために1時間ぐらい、休憩をはさみながらだったと思う。
 それだけ続けて見ても、居眠りするどころじゃありませんでした。あまりにも衝撃的で。

 それから何年かしてからだったかな、テレビで全部放映したのをVHS録画して見ました。2度目に見ても、やはり衝撃的でした。

 ところが、久しぶりにそれを出してきて今見たら、以前とは全然見方が変わっているのに自分でも驚きました。

 ナチスドイツによるユダヤ人大量虐殺の悪逆非道さに対する衝撃は、何度見ても換わりません。
 生まれて数ヶ月の赤ん坊にすら水1滴も与えぬまま、10日間も列車にスシ詰めにして運んできて、1列車あたり3000人、5000人という単位で次々にガス室に送り込む。近くで見ていた人たちも、あれだけの人が来たのにごく短時間で人っ子ひとりいなくなってるって、いったいどうなってるんだ、と不思議に思うようなペースで、次々に死体の山が出来上がっていき、次々に焼却処分されてゆく。
 当時の囚人や死体処理班の人たちの生々しい証言を、収容所の廃墟の中をその人自身の視点で移動する映像に重ねて流すから、観客はまるで自分自身が囚人になったかのような感覚でその証言を聞くことになります。ぞっとします。

 その衝撃は、今も昔も変わりませんが、私が今回初めて気づいて、大量虐殺のことと同じぐらい衝撃を受け、考えさせられたのは、……

 ひとつは運ばれてくるユダヤ人たちを線路沿いで見ていたポーランド人農民たちの証言ぶりです。
 ユダヤ人たちはなぜここに連れてこられたのか知らないんだぜ。だから、列車の停車中に、乗客の見てるところで、手で首をチョン切られるポーズをして見せて、あんたたちを待ってる運命はこれだよ、って教えてやったのさ。
 と、いかにも面白そうに笑顔でインタビューに答える農民たち。彼らは今でもユダヤ人たちが殺されたのを本気で面白がっているんです。おそらく先祖代々筋金入りのユダヤ人差別主義者で、あんな連中は死んでよかったんだ、と本気で思ってるんでしょう。

 ヨーロッパのユダヤ人には富裕な商人が多かった。収容所まで来る列車にも、綺麗にめかしこんだ金持ちの女性たちもいて、こういう人たちには疑念を抱かせないよう、ナチスの方も快適な旅をさせていた。そういう金ぴかの乗客たちを見た貧しい農民たちが、ざまあみろ、という調子で首をチョン切られるポーズをしてニヤニヤ笑ってる。
 そして彼らは、ナチスドイツの残虐行為の全貌が明らかになった今でも、自分たちのこういう心情に疑問ひとつ抱いていない。
 ある意味、ナチスドイツの行為にひけをとらないぐらい、これは恐ろしいことだと私は感じました。

 もうひとつ、恐ろしいと思ったのは、かつてのSS隊員にインタビューしている、ほかならぬランズマン監督自身です。
 相手には、匿名で、顔も映さず、ただ話を聞くだけだ、とはっきりと約束しておきながら、じつは赤外線隠しカメラで本人の顔を映し、名前も公表して映画に取り入れている。しかもそういう隠し映像を建物の外に駐車した車の中で受信しているスタッフの姿を、なんだかすばらしい仕事をしている人みたいに自慢げに映し出している。

 ちょっと待てよ、と思った。相手が犯罪行為に手を貸した人であれば、嘘をついて隠し撮りをしても、その映像を本人に無断で公開しても、何をしてもかまわない、と考えているとしたら、このランズマンという人、とんでもない考え違いをしています。
 どんなに残虐な犯罪行為であろうと、それを裁くことができるのは「法」だけです。それが法治国家の原則です。こんなやつにはこれぐらいのことをして当然だ、と個人が勝手に判断して行なう行為はすべて、リンチ(私刑)です。ランズマン監督は、ナチスドイツの巨悪の真相を記録するため、という美名の下で、元SS隊員にリンチを加えているのみならず、その様子を自慢げに映像で公表までしてるんです。

 これじゃあ、この映像の価値は激減します。相手が絶対に許せない悪を行なった人たちだからこそ、こちらはどこまでも正義を守る立場でそれを糾弾するのでないと、意味がありません。悪に対するに悪をもって報いようとするんじゃ、問題は何も解決しません。

 この映画は、ナチスドイツの醜さを描いているのはもちろんですが、証言者や、製作者の醜さまでいっしょに描いてしまっています。ナチスドイツの醜さの大きさに幻惑されて、これらの醜さが見えなくなるような人間には、なりたくないものです。

詳細評価

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音楽

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