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内なる傷痕

内なる傷痕

LA CICATRICE INTERIEURE/THE INNER SCAR

60

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4.0

木がない世界

1970年。フィリップ・ガレル監督。若い男女のすれ違いらしきシーンで始まり、次第に神話的な様相を呈していく不思議な映画。セリフはなく、人物たちは詩のようなものを口にし、または歌う。自然のなかを途中から男は裸で、歩いたり走ったり馬に乗ったり。ひとつのシーンのなかにはほとんどカットがないのですが、カメラの位置と動きで美しい映像になっています。 英語・フランス語・ドイツ語(はわかったけどさらに言語があるようだった)などで口にされる内容は何か古典の引用なのかもしれません。それがわかれば作品理解に大いに役に立つのでしょうがそれはそれとして、少なくとも男女のすれ違いが根源的なものであることがテーマのように見える作品世界に木がないことのほうが気になります。羊や馬が現われ、滝や砂浜や湖や大地が描かれる自然のなかに木が一本もない。これが「内なる」世界だとしたら、なんて荒涼とした内面世界なのでしょう。男女のすれ違いどころではない不毛さ。 「木がない世界」こそ、余計なものを削ぎ落としてテーマ(男女の根源的なすれ違い)だけを描くことの具体化なのでしょう。滝に近づくことは死ぬまで禁止というのですから、これほど瑞々しさとかけ離れた不毛な内面はない。最後に男から女に剣が渡されますが、それが男女の間に関係を構築するのだとはとてもみえない乾ききった映画です。それが美しく描かれているからすごいのですが。

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