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サイコ (1998)

PSYCHO

監督
ガス・ヴァン・サント
  • みたいムービー 31
  • みたログ 519

3.00 / 評価:133件

骨董品に糞尿を塗りたくられてるかの如く

  • yuki さん
  • 2019年8月31日 3時28分
  • 閲覧数 574
  • 役立ち度 0
    • 総合評価
    • ★★★★★

オリジナルの脚本を使い、バーナード・ハーマンのトラックを流し、カメラワークと編集すら忠実に再現した、リメイクというより「クローン映画」を目指したガス・ヴァン・サント版『サイコ』ですが、そこまでコピーしておきながら微妙な所で観客の心境を逆なでする改変がなされていて、その点が非常に気に入らなかったです。



この映画はヒッチコックの『サイコ』から「下品」に改変されています。あの格調高いクラシックの名作中の名作をなぜ「下品」にしたのか。オリジナルの『サイコ』は何度も見返してるのでそういう改変が非常に目につきます。

例えば気になったのでは

ヒッチコック版「頭痛するので早退します」「ラスベガスで遊べば一晩で治る」「いえ、週末はベットで寝ていますわ」

サント版「頭痛するので早退します」「ラスベガスで遊べば一晩で治る」「いえ、週末はベットで寝ていますわ」「ベットはベガス以上の遊び場だ、がはは!」

わざわざ最後の一言を付け加える必要がどこにあったのか?作品の品性を落としてるだけですし、オリジナルを何度も見返した観客には微妙に変わったセリフに困惑させられます。しかし、オリジナルとリメイク両者で使われているジョセフ・ステファノの脚本を精査してみると、実は初稿ですでにこのセリフは書かれており、サント版は脚本を忠実に映像化しただけに過ぎないことが分かります。ではサントはステファノの脚本をすべて忠実に再現しているのか?となるとそうでもありません。終盤の精神科医のセリフは後半がカットされています(ヒッチコック版にはある)。
要はサントはちゃんと情報の取捨選択をしているわけで、この映画はオリジナルの完璧な「クローン映画」にはなっていません(ウォークマンには失笑)。そういう意味で、これはサントの映画であります。コピーしただけですのでという責任逃れは許しません。

さらに、オリジナル脚本を参照するだけならまだしも、原作にも脚本にもなかった下品な描写が追加されています。
例えば冒頭のサムとマリオンのピロートークからそれで、二人の会話を遮るように隣室のベッドが軋む音が聞こえてきます。さらに酷いのがノーランがマリオンの着替えを覗き見するシーンで、ノーマンの顔のズームアップに合わせてマスターベイションを示唆させるSE音が付け加えられています。

ヒッチコックの『サイコ』が公開された1960年というのは「ヘイズ・コード」というハリウッドの悪しき倫理コードが適用されていた時代であり、『サイコ』もその規制の影響を受けています。有名なシャワーシーンの目まぐるしいカッティングはその名残です。スタジオは『サイコ』の残酷描写に眉をひそめましたが、ヒッチコックはあのシーンにナイフが肌に突き刺さるカットは一つもないことを証明し、晴れて銀幕に映画史に残る殺人シーンが投影されたのです。

ですので、『サイコ』の他の場面でも、コードを気にして穏健になってしまった表現があるのではないか?というのは当然の懐疑なわけですが、それにしたってマスターベイションはないでしょう。私にはヒッチコックがそのような下品な表現を望んでいたとは到底思えません。

一体どうしてガス・ヴァン・サントは完全なクローンで満足できず、「下品」を付け加えたのか。この映画は世評に違って、”クローンですら”ないのです!
この改変には、二千年前の骨董彫刻に糞尿を塗りたくられてるかのような嫌悪感を抱きました。


(シャワーシーンついでに。サイコ98では殺人シーンに若干の手直しが加えられてていますが、シュールイメージを挿入する演出は効果的で良かったと思います。しかしマリオンがバスタブ外に倒れ込むカットは、やはり下品だ)


しかしながら、この映画の最大の欠点はキャスティングにあります。
『サイコ』はアンソニー・パーキンスの演技あってこそのシリーズでしたが、本作でノーマン役を務めるヴィンス・ヴォーンは完全にミスキャストです。ノーマンの神経質的な所を表現するにはヴォーンはガタイが良すぎますし、そもそも顔が元から厳ついです。大人しい青年から次第に狂気の表情となっていくパーキンスの演技力が『サイコ』の肝でしたが、ヴォーンにはそういったサプライズがありません。最初から頭がおかしそうです(失礼)。

ヴォーンの演技力というより、製作側の人選ミスです。 マリオン役のアン・ヘッシュと頭1つ分以上背丈が違うのだから、横並びになったときの画の印象も違ってきます(せめて踏台使え)。撮影前から分かることです。

本作は徹頭徹尾失敗作です。複写のような退屈な映像に、作品の趣旨を理解してないキャスティング、さらには不愉快な改変と、すべてがこちらの気力を奪いにかかります。それでも優れた原作と優れた脚本と優れた音楽は、初見の観客にある程度の満足を残すほどにはその偉大さを誇示しているでしょう。

詳細評価

物語
配役
演出
映像
音楽

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