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太平洋奇跡の作戦 キスカ (1965)

監督
丸山誠治
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4.21 / 評価:52件

ミニチュア特撮と白黒画面が冴える戦争映画

1965年の東宝映画『太平洋奇跡の作戦キスカ』は戦争映画の傑作だ。昭和18年に起こった、日本軍のキスカ島撤退作戦を題材にしている。キスカ島とは、アラスカからカムチャツカ半島に伸びるアリューシャン列島の西側に位置し、れっきとしたアメリカ合衆国(アラスカ州)の一部である。
冒頭で広大な太平洋の地図が示される。緒戦の勝利に乗った日本は、北から南まで国力に見合わないほど、戦線を拡大していたのだ。しかし、しょせんは無謀な戦争であった。ミッドウェー海戦の敗北後、戦局の悪化に伴って各地で「玉砕」に名を借りた全滅が行われ、アッツ島守備隊も玉砕。周囲は完全にアメリカ軍の勢力範囲になり、キスカ島の日本軍守備隊も風前の灯であることが語られる。

白黒映画なのだが、これが非常に効果的である。太平洋戦争の悲劇を描いた映画は、南方戦線を舞台にしたものが多い。しかし本作のキスカ島は寒冷地で、雪を頂いた山を背景に、荒涼とした原野がメインの景色である。カラーにしてもモノトーンの色彩になるだろう。
艦船が登場する場面は、ウルトラマンでおなじみの円谷英二が手がけたミニチュアが使われており、白黒画面のおかげで非常に臨場感がある。本作の主役といえる「阿武隈」が霧の中で「国後」と衝突しそうになる場面は、「スター・ウォーズ/帝国の逆襲」の、スター・デストロイヤー同士のニアミス場面を思い出した。
そして艦隊がアメリカ軍の裏をかいて、島の北西部から断崖スレスレに侵入し、いきなり霧の中から守備隊の前に姿を現す場面は感動ものだ。公開当時、本物の艦船を使って撮影したのでは?と話題になったそうだがそれも納得だ。現代の技術は当時と比較できないほど進歩したが、かえって古いアナログ技術の方が、見せ方によっては観客の心を打つのではないか、そんな事を考えた。

円谷プロは、こうした水をからめた特撮に非常な強みを持っていたようだ。本作の翌年に放映が始まった「ウルトラマン」第1話でも、湖底に侵入した宇宙怪獣ベムラーに、潜水艇と上空の両面から攻撃する場面があった。
ウルトラシリーズといえば、イデ隊員役の二瓶正也(本作はイデのようなお笑い担当ではない)とウルトラセブンのソガ隊員役の阿知波信介(本作が俳優デビュー)の兵隊コンビや、ハヤタ隊員役の黒部進、ウルトラセブンや「帰ってきたウルトラマン」の参謀役の藤田進、「ゴジラ」やウルトラマンに出演した平田昭彦らが出演しており、ファンにとっては楽しい限りだ。

強力なアメリカの包囲網の中、いかに上陸して孤立した部隊を救出するか。最大の援軍となったのは、この地域で発生する濃霧であった。なにしろ島を敵艦と間違えて攻撃し、味方同士があわや衝突となり、アメリカ軍がメクラ撃ちを始めてしまうのだから凄まじい(キスカ島の守備隊が砲撃音を聞いて、日本軍がやられていると勘違いするほどだ)。本作では白黒の効果もあって、この霧が非常にうまく描かれている。
撤退作戦の指揮を執る大村少将(三船敏郎)は、兵学校をビリの成績で卒業したという。地味な経歴の持ち主だがかえってそれがよい、なまじ華々しい戦果を誇る将校だったら、経歴に傷が付くのを恐れるあまり部隊に無理を強いて失敗するだろうと。この言葉には深く考えさせるものがあった。

映画を観て感じたのは、ありきたりだが「反戦」の思いである。観ている私は撤退作戦が成功するのを知るだけに、アメリカ軍の空襲を受ける場面では「もう少し頑張って逃げ回れ。助けが来るから」と思ってしまう。空襲によって戦死者が出て、脚を失った負傷兵が手りゅう弾で自決する場面。そしてキスカ島を目指す潜水艦が、上陸目前にして撃沈する場面(連絡将校ひとりは救助されるが)は、戦争の悲惨さを分かっているつもりでも胸が痛む。

劇中にはセリフで反戦を語る場面はない。しかし玉砕を覚悟した兵隊たちが「自分たちの救出活動が進んでいる」のを知り、生きて日本に帰りたいという意欲をみなぎらせる。他に反戦を連想する場面を挙げてみると、平田昭彦演じる軍医が、兵士から手りゅう弾を没収する場面。戦死者の遺骨を抱えた兵士たちが最初に撤退し、彼らに向かって大村少将が敬礼する場面。
そして命令によって、「阿武隈」に乗り込む兵士たちが一斉に銃を海に捨てる場面だ。銃を捨てるのは撤退に要する時間を短縮するためであり、海に捨てるのは武器をアメリカ軍に渡さないためであるのだが、私には戦争に対する強烈な異議申し立てのように思えた。

そしてラストに出てくる「上陸したアメリカ軍は各所で同士討ちを起こし、100名もの戦死者を出した」という字幕。同士討ちの恐怖はイーストウッド監督の「英雄たちの星条旗」でも描かれていたが、100名も亡くなるとは多すぎる。もしかしたら霧の中で、ありもしない日本兵の幻を見たのではないか?などとオカルトめいた事を想像してしまった。

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